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気兼ねなく書ける場所

以前にも書いたが、僕にとっての究極のラジオ番組は、近石真介さんの「はがきでこんにちは」である。

僕が小学生の頃だから、もう40年以上も前、TBSラジオの平日の朝の生ワイド番組を担当していたのが近石真介さん。10年近く続いた番組が一旦終わり、別のパーソナリティーがそのあとの番組を担当したが、結局、ほどなくして近石さんの朝の生ワイド番組が復活した。つまりそれほど安定感があり、その時間になじんでいた。しかし復活してから2年で降板してしまった。演劇に専念したい、とかそういう理由だったと記憶している。当時NHKラジオで担当していた夜の生番組も同時にやめたと記憶しているから、文字通りラジオパーソナリティーの第一線から退いたというわけである。そのときの喪失感といったらなかった。

その後、近石さんがワイド番組を担当することはまったくなくなったが、唯一、ほそぼそと続けていたラジオ番組が、「はがきでこんにちは」という5分番組だった。もともと朝の生ワイド番組の1コーナーだったのだが、このコーナーだけひとつの番組として独立させて、亡くなる2年前の2020年10月に至るまで、じつに50年近くも続けた。毎回1枚、リスナーからのはがきを読み、それに対して近石さんがコメントを言う、というじつにシンプルな番組だった。

面白いのは、この番組はTBSラジオが制作しているにもかかわらず、キー局であるTBSラジオでは放送されなかったことである。限られた地方ラジオ局でしか聞くことができないレアな番組だった。これは、その後継番組の「おたよりください」もまったく同じである。現在、「おたよりください」のパーソナリティーは伊集院光氏だが、テーマ曲から番組の構成に至るまで、「はがきでこんにちは」の時とまったく変わっていない。ちなみに伊集院光氏も、近石真介さんと同じ時間帯のTBSラジオの朝の生ワイド番組を担当していたが、1年ほど前に降板し、いまはまわりまわって近石さんの後継番組を担当している。縁とはまことに異なものである。

何が言いたいかというと、なにかと窮屈なワイド番組を続けることをやめた先には、届きにくい場で、本当に聴きたい人だけに向けた究極にシンプルな番組に行き着くのではないか、という仮説である。「はがきでこんにちは」は、文字通り近石真介さんのライフワークになった。シンプルで気兼ねなく喋れたからこそ、長く続いたのである。伊集院光氏の「おたよりください」も、できればライフワークにしてほしい。

…というのが前説。

先日、1冊の本が送られてきた。僕が憧れている究極のミニコミ誌のバックナンバーが、なんと合本して復刻されたのである。僕もこのミニコミ誌には2回ほど原稿を書いたことがあり、その後どうなったのだろう、まだ続いているのかな?とすごく気になっていたのだが、合本して復刻されるとは思わなかった。B4を2つに折った4ページ分にしたシンプルな形態で、最初は年4回くらい発行するつもりだったそうなのだが、気がつくと書くことがありすぎて、毎月発行となったのだという。すでにかなりの号数になっている。読者は10名程度だそうで、書きたい人が書くという自由なスタンスが、長続きした秘訣だろう。

僕も原稿を書いたことがあるという縁で、わざわざ送っていただいたのだが、読んでいくうちに、自分もまたこのミニコミ誌に書いてみたいという衝動に駆られたから不思議である。

「大歓迎です。どうぞ書いてください」

と言われたので、調子に乗って1500字ていどの短い随筆を一晩で仕上げ、さっそく送信した。不思議なもので、職業的文章は全然書けないのだが、こういう原稿ならばすぐに書ける。書いていて楽しいのである。そうか、だからこのミニコミ誌は読者がほとんどいない(というか想定していない)にもかかわらず、毎月発行してもネタが尽きないのだな。近石真介さんが「はがきでこんにちは」で、肩肘張らずに楽しくお喋りすることで長続きできたのと、まったく同じ理屈である。しかも、だれに気兼ねすることもなく、である。

僕がさっそく原稿を送ると、「どうでしょう、こうなったら会員になりませんか?」とお誘いを受けた。願ってもないことである。

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