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謎のお爺さん

鬼瓦殿

こんばんは。コバヤシです。8月も終わりだというのに暑い日が続いていますが、体調は大丈夫ですか?

ところで、昨日の夕方、大阪で入団したバンドの練習があったのですが、ちょっとしたハプニングがあり、なかなか面白い体験をしたので、ネタとしてメールさせて頂きます。ちょっとつまらなかったら申し訳ありませんが、ご一読いただければ幸いです。

我々のバンドは大阪の環状線のとある駅の高架下のスタジオで練習しています。

今日はメンバーが6人しか集まらず、だらだらと練習していたのですが、練習後半の休憩時間中に、突然、変なお爺さんが「すんまへん。Tさん(ウチのバンドのドラマー)はおらんかね~?近所に住んでるもんで、買いもんついでに寄ったんやけど。」と突然スタジオに入って来ました。

私は、ちょっとアルコールも入ったボケ気味の老人かと思って、どうしたものかと見ていたのですが、ベースをやっているバンマスはどうやら顔見知りらしく「Tさんは今日、別のバンドの練習でお休みなんです。すみません。」と、ちょっと驚いたような様子を見せながらも普通に答えています。

お爺さんは「そうか、しゃあないな~。でもドラムいないならワシがちょっと叩かせて貰ってもええかい?」と言い出します。私は、あれあれ困ったなあ、この人ちゃんとドラム叩けるのかなあと見ていると、お爺さんは「買いもんついでに寄ったから、スティックを持ってないんだけど、ある?」と図々しく聞いてきます。

バンマスはちょっと困ったように「ご覧の通りTさんが休みだからスティックはないですよ。」と答えます。するとお爺さんは「ほな、ちょっと待ってな。その辺で借りてくるわ。」と何処かに消えていき、暫くするとスティックを握って戻ってきました。

「ほな、叩かせて貰うけど、本当に構わんかいな?」と少し遠慮した様子を見せながらも叩く気満々で我々に尋ねます。私も1曲叩いたら居なくなるだろうと思い、是非、と答えました。

お爺さんは「何の曲やるん。楽譜はないんかね?」と聞くので、バンマスが「すみません。あいにくドラムの楽譜持ってきてないんです。ただ基本的にカウント・ベイシーの曲を演ってますんで。」と答えます。

するとお爺さんはやる曲を聞いてフムフムと頷き、バンマスにテンポを聞くと、おもむろにカウントを出し演奏を開始しました。

最初の一瞬、デカい音だけど大丈夫かなあと思ったのは大きな間違いで、シンバルのレガート(4拍の刻み)は滅茶苦茶スイングしていてバンド全体をプッシュしてきます。更に各所にあるドラムの決めもきっちりこなし、音の強弱の付け方も素人とは思えません。

1曲終わった後、お爺さんは「覚えとるかなあ?と思ったけど、叩いてみると意外に思い出してくるもんやな。この曲は確か1970年ぐらいにやったなあ。」と飄々と話します。本当にビックリしてこのお爺さんは何者だろうと思ったものの、お爺さんは「次は何やる?」と言って次々と曲を完璧にこなしていきます。私も何曲かソロを吹かせて貰いましたが、アンサンブルの時は大きな音で叩いていたのが、ソロになるとちゃんと音量を落としてソロを引き立てるように叩いてくれるので本当に気持ちよく吹けます(まあ私の腕はさておき)。

さきほど「デカい音」と書きましたが、音量は大きくてもツボを押さえた的確な叩き方なので全くウルさくありません。

お爺さんは4~5曲、叩いた後、「ちょっと昔話させて貰ってもええですか?」と言って、自分は音楽の道に入ってもう60年が経つなどと話しながら、「皆さん平原綾香は知ってる思うけど、私、そのお爺さんのトランペッターの平原さんのバンドにいたんですわ。(ちなみに平原綾香のお父さんは平原まこと、というサックス奏者ですね)」とか、「昔、原さん(原信夫とシシャープス&フラッツ)と対バンでやりましたわ。」とか「北村さん(クラリネットの北村英治)のバンドでやってた時は」などと、何だか凄い話をします。

また最近ウチのバンドでは、バンド経営層とサックス陣の何人かが揉めてバンドを去っていったのですが、それを知ってか知らないでか「バンドっちゅうのは、それぞれのバンドの流儀があるから、メンバーはバンマスに従うだけで、どうするこうするなんて言っちゃいかんのですわ。音を出せば、お互いのことはすぐ判りますから。私は若い頃、そう先輩たちから教わりましたわ。」とか、「私はどんなバンドで叩く時も、それがクソみたいな酷いバンドであっても、必ず本番の2時間前には会場に行きます。長年そうしてきました。それが私の仕事に対する矜持です。」などと自分の経験を穏やかに語ってくれます。「私も若い頃は良く先輩たちにシゴカレましたわ。休憩と言われたから休憩していたら先輩にどつかれたもんですわ。昔は今と違って厳しかったですからね。お陰様で私も長くやらせてもろうてますわ。でも、若い時はなかなかその先輩の教えが判らず、漸く判った時は、もう死ぬときですわ。」などとボケも交えながら話してくれました。

暫く話した後、お爺さんは「そろそろ帰らないと家内に怒られてしまうわ。最近、家内も調子悪いし、ワシも最近、腹切ったばかりなんですわ。」と言って、シャツをめくってお腹を出して手術の跡を見せながら「後45分遅かったら死んでるとこでしたわ。ほな、今日はありがとうございました。」と言って帰っていきました。

お爺さんが帰った後、バンマスに「あの人は何者なんですか?」と聞いたら、「あの人はNさんといって関西に昔からあるアロージャズビッグバンドのドラマーだった人です。ウチのドラムのTさんのお師匠さんです。」とのこと。

なるほど上手いわけだと独り合点しつつも、プロと演奏するとやはり勉強になるなあ、と思った次第です。

ということで、長く第一線で活躍して来た人の言葉は飄々と語られても含蓄があるものだなあと思いつつ、最近、色々と考える処があったので、お爺さんの話を聞いて、少しモヤモヤが晴れました。

ということで、つまらない話を失礼。

それでは、お元気で!

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