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マメなおじさん

8月14日(月)

何年前からかは忘れてしまったが、毎年8月14日には、母方の親戚が集まるという決まりがある。もちろん、お盆なので、母方の両親、つまり僕にとっては祖父母にあたるわけだが、そのお墓参りをして、そのあとにみんなで集まって会食をするのである。

会食の場所は、料理屋さんなどではなく、母の妹、つまり僕にとってはおばさんの嫁いだ家である。祖父母のお墓から一番近いところに住んでいるという理由で、親戚が集まる拠点となったのである。

コロナ禍はさすがに集まることができなかったが、コロナが2類から5類に位置づけられたことを以て、今年、その親戚の集まりが3年ぶりに復活したのである。

今年の春頃だったか、母の妹の夫、つまり僕にとってはおじさんから、カラフルなチラシをもらった。そこにはおじさんの手書きで、

「新型コロナウイルス感染症は5類に引き下げられる見通しとなりました。そこで3年間実施されていませんでしたが久しぶりにお墓参りの後、○○家にお集まりいただきみなさんでわいわいしたいと思います」

とある。そして、主催者(母を含めた3姉妹)と、日時(2023年8月14日12時)、場所(おじさんの家の住所)も書かれていた。

さらに、おじさんが描いたのか、ほかの人が描いたのかわからないが、「こんなにも心洗われるなんて…」の言葉とともに、のどかな田園風景を描いた絵がチラシの大部分を占めている。

これはもう、立派なチラシである。おそらく親戚全員に配ったのだろう。しかもこれを春先にもらったのである。おじさんが、この集まりをいかに楽しみにしているかがうかがえた。これは何が何でも、8月14日は予定を空けなければならない。

前日まで、僕たち家族は自宅から西に140キロほど離れた高原に滞在していた。帰宅したのは13日の夜である。そしてその翌日、今度は自宅から120キロほど東にある水郷の町に車で向かった。12時に間に合うように、である。

水郷の町、といっても、おじさんの家は、水郷からはほど遠い、「ポツンと一軒家」的な山の中にあり、アクセスが難しい。2時間半ほどかけて、一番乗りで到着した。

そのうちぞろぞろと親戚が集まり、総勢19人が集まった。19人のうち、子どもたちは、中学生を筆頭に私の5歳の娘に至るまで、6人を数える。

チラシの開始時間どおり、12時に会が始まった。テーブルの上には、食べきれないほどの料理が並んでいる。

この会を企画したおじさんが、当然ながら乾杯の音頭をとったのだが、その時の挨拶に、

「このあと、子どもたちにはお楽しみコーナーがあります」

と、思わせぶりに言った。

ひとしきり料理を食べ、テーブルの上を片づけると、おじさんはおもむろに、大きなテンバコ2つと、縁日の絵がカラフルに描いてあるポスター大の紙を持ってきた。大きなテンバコの中には、10円くらいの駄菓子と、100円くらいの小さなおもちゃがいっぱい入っていた。

「さあ、これからお楽しみコーナーです。これから子どもたちに縁日の気分を味わってもらいます」

そう言うと、子どもたちひとりひとりに、手書きで「100円」「50円」「10円」と書いた紙のお金を配った。ひとり300円ほどだろうか。

「さて、このお金で、ここにあるお菓子やおもちゃを買ってもらいますよ。お菓子やおもちゃにはそれぞれ値段がついていますので、上手にお買い物してくださいね。いまから買い物袋を配りますから、好きな買い物袋を選んで、買ったものをその袋の中に入れてくださいね」

カラフルな買い物袋まで用意しているではないか。

子どもたちに、お金の使い方の勉強をしてもらうのがねらいのようだ。うちの5歳の娘は、当然、ひとりでお買い物なんぞしたことがないから、初めての体験である。

これは、おじさんのサプライズ企画だったらしく、ほとんどの大人はこの企画のことを知らなかった。つまりおじさんは、縁日の気分を味わわせるために縁日の風景を描いたポスターを作成し、駄菓子やおもちゃや買い物袋をどこからかたくさん買ってきて、、「100円」「50円」「10円」と手書きした紙のお金をせっせと作り、それを人数分に小分けして、ビニール袋に詰め、商品となるお菓子やおもちゃの一つ一つに、付箋を使って値段を表示し、…といった作業を、ひとりでせっせと行っていたのである。

当然、この「縁日ごっこ」は、子どもたちの間で好評だった。とくに欲の深いうちの5歳の娘は、渡されたお金を全額使い、1つの袋に入りきらないほど駄菓子はおもちゃを買った。

この企画をやり遂げたおじさんの顔は、満足げだった。

母を含めた3姉妹は高齢化し、孫の中には来年高校生になる子もいるから、「もうこの集まりは今年が最後かもね」と母は言っていたが、この調子だと、来年も「縁日ごっこ」をやりかねないぞ。

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コメント

こちらも旅の空というか、4年ぶりの帰省中。実家にインターネットがないので、ネパール料理店のWifiで、ここに記す。

投稿: こぶぎ | 2023年8月18日 (金) 20時09分

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