風穴を開ける
9月16日(日)
午後は、5歳の娘と二人で映画館で『プリキュアオールスターズF』を見に行った。映画館の客席がずいぶん混んでるなあと思ったら、昨日公開したばかりだったのね。僕が何も考えずに「プリキュアの映画、観に行く?」とうっかり提案したら、狂喜乱舞していたので、連れていくことにしたのである。
といっても僕はプリキュアがどんな内容のアニメなのかは知らない。ぼんやりと女の子たちが主人公のヒーローものなのかな?というくらいの知識しかないのだ。でもプリキュアのテレビ放送が始まってから20年経っているそうで、そんなに長寿番組だったっけ?と驚くばかりだった。
で、このたび初めて映画を観て、プリキュアのなんたるかを学んだのだが、僕のファーストインプレッションは、
(これは、ウルトラマンシリーズみたいなものなのか?)
という仮説が思い浮かんだ。テレビでは、この20年間にいろいろなプリキュアのチームが交代で活躍し、今回、歴代のメンバーが勢揃いして「オールスター」というタイトルがつけられたみたいだ。
たとえていえば、ウルトラマンとかウルトラセブンとか、テレビシリーズで活躍した歴代のウルトラ兄弟が勢揃いしたというのが、この映画なのか???
少なくとも僕はそんなつもりで観たのだが、上映時間もほどほどの長さだったし、娘は飽きるどころか大興奮して、家に帰ってからも、映画館で手に入れた小型のライトみたいなものやキーホルダー状の小さなお人形を使って、ウルトラマンごっこならぬプリキュアごっこをしていた。
さて、僕は帰宅後に、大仕事が待っていた。
これ、話せば長くなるし、どこまで書いてよいものか非常に悩ましいところなのだが…。
話の発端は、保育園のママ友たちが、有志で卒園記念のアルバムを作ろうという話で盛り上がったことに始まる。
保育園からは卒園時にアルバムのようなものが配られるのだが、どうもそれはあまりにも簡易なもので、しかも白黒ということで、保育園の保護者たちは、いたく不満なのだという。もっと思い出に残るような、カラー版の素敵な卒園アルバムを作りたい、と誰かが言い出したのだ。誰が言い出したのかは、いまとなってはわからない。
しかしそれは簡単なことではないので、必ずしも必要ないんじゃないか?あったとしても、できるだけ簡易に作れるものにした方がよいのではないか?という意見の人たちも、一定数いる。実はわが家もその立場である。
それで、ママ友のグループLINEでアルバムを作るか否かで決を採ることにしたところ、作るという意見が過半数を超え、結局作ることになった。一方で、作らなくてもいいんじゃないか、という意見も一定数いたことは、ここではっきり書いておかなくてはならない。
そこから数か月にわたって有志で集まって、どういうアルバムを作ろうかという話し合いの場を設けているようなのだが、いっこうに話が進んでいないようだった。
で、この日、また打合せをしたいというLINEがママ友たちの所に来て、夕方6時から、近くの公会堂で飲み物や食べ物を持ち寄りながら打ち合わせしましょう、ということになったのである。
うちの家族がかねて不思議に思っていたのは、なぜそのアルバムに関する意志決定には、ママ友だけが参加して、パパは排除されているのか、ということであった。そもそも、グループLINEがそういう構造になっているので、パパは蚊帳の外なのである。案の定、パパがその打合せに参加すると表明する家は一つもない。
それっておかしいんじゃないの?といううちの家族の総意で、パパである僕が参加することにしたのである。ママ友の会にパパが参加するのは明らかに「場違い」と言われそうだし、「空気を読めよ」「忖度しろよ」と思われるに決まっているのだが、うちの家族はそういうことが嫌いなので、ここは、パパが参加することで風穴を開けようということになった。僕にとっては、ママ友に混じって一人参加することに逡巡する気持ちはなくもなかったが、だれかがやらないとこの悪弊は永遠に続いてしまうし、僕は周りにどう思われてもバカなふりをすればいいや、と思うことにして、思い切って参加することにしたのである。
グループLINEによると、夕方6時から、近くの公会堂で飲み物や食べ物を持ち寄りながら打ち合わせしましょう、とあったので、はは~ん、これは単にママ友たちだけで呑みたいのだな、こりゃあ、アルバムについての打合せなどまとまらないぞ、というか、今まで数か月にわたって何にも決まっていないのは、そのせいなのか、と納得がいったのである。
で、近くのスーパーでウーロン茶と300円くらいのお菓子を買い、集合時間を10分ほど遅れて公会堂に到着すると、すでに大声で打合せが始まっていた。僕が打合せの部屋に入ると、一瞬、空気が張り詰めた。
「すみません。場違いな者がおじゃましてしまって」
「いえいえ、そんなことないですよ」
と言うのだが、明らかに僕の扱いに困るという表情だった。
最終的に集まったのは、僕を含めて9人。つまりママ友は8人ということになる。
ところでクラスの園児は全部で26人。ということは、大半の人が参加していないということなのだ。連休の中日なので、予定が入っているのだろうと思った。
最初はアルバムの打合せをするのだが、それぞれが勝手な希望を言い出し、たちまち収拾がつかなくなる。僕はだんだんイライラしてきた。
だれかが、ひとりひとりの0歳のときの写真を入れましょう、と言いだしたので、僕はつい我慢できず、
「保育園のアルバムで、ひとりひとりの0歳のときの写真を入れるって、それ関係なくないっすか?」
と言ったら、
「でもみんなの0歳のときの顔って見たいじゃないですか。親のエゴと言われればそれまでですけど」
と反論され、ほんとうに他人の子どもの0歳の顔って見たいと思うか?0歳なんて全員同じ顔してるぜ、と心の中で思ったが、おくびにも出さなかった。
あと、卒園式のときの写真も載せましょうと言い出すヤツがいた(もう「ヤツ」って言っちゃってるよ)。これもたまらず発言した。
「卒園式の写真をアルバムに入れることにしたら、卒園式で配れないじゃないっすか。たとえば小学校の卒業アルバムで、卒業式の写真なんてなかったじゃないっすか」
卒園式のときの写真をアルバムに収めることにしたら、卒園して小学校に入学したあとにアルバムが手元に来ることになる。それもまた面倒なこことになりはしないか?と僕は思ったのである。しかしこの意見も、
「でも卒園式で子どもたちが着飾った姿をアルバムに収めたいじゃないですか。親のエゴかも知れませんけれど」
と一蹴された。
僕が自分の子どもに対する愛情が薄いということなのか?と、この時点でかなり自分を責めたのだが、同時に僕ごときが何を言っても無駄なのだ、ということに気づいたのである。そこからはひたすらピクニックフェイスを心がけた。
僕はお酒を飲まなかったが、8人のママ友たちはアルコールが入り大声になり、時間が経つにつれてアルバムのことなんかどうでもよくなり、全然違う話題に脱線しまくっていた。酒が進むと、アルバムに乗り気でないほかの保護者へのやんわりとした批判や、保育士の方に対する愚痴とか悪口、はてはお連れあいに対する悪口雑言なども飛び出し、とても聞くに堪えない状況になっていった。
「決してクレーマーというわけではないんですよ。みなさんのためを思って…」
と弁解がましく言っていた人もいるのだが、いやいや、あなた、立派なモンスターペアレントですよ。
どおりで保育士さんが保護者を警戒するわけだ。
そこでようやく僕は理解した。
クラスの園児26人の保護者のうち、この日に欠席した17人保護者たちは、全部とは言わないが、初めからこうなることがわかっていたんじゃなかろうか?で、防衛本能がはたらいたのだ、と。いずれにしてもこれは、明らかに「サイレント・マジョリティー」という言葉がふさわしい。
もっとも、ママ友だとかパパ友が一人もいない僕の目から見た光景なので、「あの場に参加していたママ友はヤベーヤツばかり」というのはあくまでも僕の目線から一方的に見た偏見にしか過ぎませんよ!
僕は1時間を過ぎたあたりから気分がひどく悪くなり、2時間が経った8時過ぎにもう耐えられなくなり、
「そろそろ失礼します」
と、公会堂をあとにした。僕が出てから欠席裁判が行われているだろうなあと気分も悪くなったが、なんとか気持ちを落ち着かせようと、そのあとTBSのドラマ「VIVANT」の最終回をリアタイして、なんとか気持ちが復調した。
…ちょっと大げさに書いてしまったところもあるが、ママ友の飲み会を取材したと考えることにし、いつかこれをコントにしてみたいと思っている。
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