5歳放浪記
10月22日(日)
僕が午前中からお昼にかけて国際会議にZoom参加しているあいだ、妻と5歳の娘は外出して時間を潰し、近所にある「風」というCafeで昼ご飯を食べていたようだった。
以前にも書いたが、「風」は住宅街にあり、ふつうの住宅を改装してCafeにしている。メニューには、沖縄関係のおそばがメインで、和歌山の茶粥などもある、不思議な取り合わせである。
5歳の娘は、日頃から疑問に思っていることを、実直そうな白髪の店主に聞いてみたんだという。
「このお店の名前は、なぜ『風』なのですか?」
いい質問だ。この探究心が素晴らしい。
「で、答えは何だったの?」
「えーっと、えーっと、…忘れちゃった」
忘れたのかよ!
そのときのやりとりを聞いていた妻から、だいたいの話を教えてもらった。以下、不正確だが、次のような話であった。
その実直そうな白髪の店主が、Cafeをはじめようと準備をしていたが、店名をどうしようか、決めあぐねていた。
そんな折、沖縄に旅行して、山あいにある小さな藍染め工房を訪ねたら、その名前が「風」だった。
これだ!と店主はひらめき、店名を「風」に決めた。
そればかりではなく、お店の看板になるような大きな幕を、その藍染め工房に頼んで作ってもらった。
…そういえば、お店の外側に「風」と書いた大きな幕が張ってあり、しかも幕の一部が藍色に染められていたことを思い出した。
しかしその藍染め工房のご主人は、3~4年ほど前に亡くなってしまった。工房はどうなるのかと思っていたところ、別の人がその工房を買いとって、いまも藍染め工房とCafeを続けているのだという。あるとき、その工房を買いとった人が(たまたまなのか?)お店にやってきたそうで、縁とはほんとうに不思議なものだ、とその実直そうな白髪の店主は感慨深く語ったという。
なんとも深~い話で、5歳の娘が「忘れちゃった」というのも無理はない。
さて、お昼過ぎまで続いた国際会議が終わり、ソファーで深い眠りについていたら、午後3時頃、5歳の娘にたたき起こされた。
「太鼓の音が聞こえるよ」
「聞こえないけど」
「聞こえるよ。どこかでお祭りをやっているはずだから、連れていってよ」
こうなるともう、お祭りに行かないと気が済まないのが娘の性分である。
太鼓の音なんてどこからも聞こえてこないのだが、スマホで、この近所でお祭りらしきものをやっていないか、検索してみる。
すると、バスで15分ほどのところにある駅の南口側で、露店のようなものをいくつか出しているらしい、ということがわかった。駅の南口を出ると、南北にまっすぐ伸びる道路があり、ちょっとした商店街みたいな感じになっている。そこに、露店がいくつか出ているというのだ。秋祭り、というわけではなく、毎月1回、日曜日におこなわれる定期的な行事らしい。この町に住んで5年くらいになるが、初めて知った。
娘を連れてバスに乗り、駅の繁華街に向かう。バスを降りると、たしかに露店が点在している。僕は「露店が軒を連ねる」というイメージだったのだが、ポツリポツリとある程度である。
なんだかなあ、と思っていたが、「紙芝居」と看板があるブースに目がとまった。
当然、子どもたちが集まっている。さっそくのぞいてみると、
「どうぞお入りください」
とうながされた。いままさに紙芝居が始まったタイミングで、娘は座るやいなや、食い入るように紙芝居の方を見つめた。
「実は私たち、こういうことをやっています」
と、ある若者から手渡されたチラシを見ると、「演劇集団○」と書かれていた。
「『演劇集団○』って、たしかこのすぐ近くに稽古場がある劇団ですよね」
「そうです。よくご存じですね」
「ええ、以前このあたりを歩いたときに見つけたのです。演劇集団○って、たしかトヨエツが在籍していませんでしたか?」
僕はわずかな記憶を頼りにその質問をしたが、その若者はそこには触れず、いまも在籍している別の俳優の名前をあげた。
「その俳優さんなら、僕も大ファンですよ」
これは別にリップサービスではなく、ほんとうである。地元にこんな演劇集団があるとわかると、とたんに応援したくなるのが僕の性分である。
(後で調べたら、トヨエツも若い頃この劇団の研究生として所属していたというから、僕の記憶もあながち間違ってはいなかった)
ふと、紙芝居を観ている娘の方を見ると、食い入るように前を見つめている。
紙芝居は、使い古されたもののようで、『なしとりきょうだい』と『雪の女王』だった。娘はこの2つの紙芝居をかぶりつきで観ていた。なんということのないような話に思えたが、おそらく劇団員であろうお二人が、ホンイキで紙芝居を読んでいるので、声もよく通り、抑揚もあり、娘はすっかり虜になっていた。
2つの紙芝居が終わり、休憩時間に入ったので次の露店に向かったのだが、
「紙芝居、面白かった?」
と聞くと、
「面白かった。『なしとりきょうだい』は保育園でも読んだけど、保育園の先生より面白かった」
そりゃあそうだ。劇団員がホンイキで読んでいるんだもの。なんとも贅沢な紙芝居である。
僕はこの日、Zoom参加の国際会議と駅前通りの露店散歩で、すっかり疲れてしまった。でもいちばん疲れたのは、一日中歩いた娘のほうだろう。
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