これってスピってますか?
10月7日(土)
会合のため、都内某所に向かう。
僕はその会合のホスト役の一人なのだが、今日はその会合で、初対面の方に講演をお願いしていた。
僕よりもたぶん10歳くらい若いと思われる、その講師の話はとても面白く、1時間半があっという間に感じたほどだった。
その方の講演を聴いて、僕は頭の中に、昨年小さな映画館で観た1本のドキュメンタリー映画が浮かんだ。
その映画は、大規模な国際スポーツイベントのために取り壊されることになった古いアパートに住む人々の日常を描いた映画だった。
60年ほど前に立てられたそのアパートには、むかしから住み続けている住人が数多くいて、コミュニティーを形成していた。たった2週間しか開催されない大規模な国際スポーツイベントは、理不尽にもそのアパートを問答無用で取り壊し、そこに住む人たちのコミュニティーを破壊することに、何の躊躇もなかった。
長い間住み続け、高齢化したアパートの住人たちには、その理不尽な仕打ちに抵抗する術を持たなかった。
取り壊しが刻々と近づくなか、住民たちは、せめてこのアパートに住んだ思い出を共有しようと、このアパートのことを撮影した8㎜フィルムの上映会を計画する。アパートを引き払うために部屋を片付けていたときに出てきたものだという。
上映会には多くの住人が集まった。8㎜映写機から映し出される映像は、まぎれもなくむかしのアパートの様子であり、住人たちは、その映像から喚起される思い出を語り合った。
その講師の講演を聴いて、なぜかその映画の、その場面のことを思い出したのである。目の前の語りの内容と、僕の中の記憶が交錯したのだろうか。
それとも講師の方が「8㎜フィルムの映像」という言葉を口にしたのを聞いて、たんにその記憶が喚起されただけなのだろうか。
講演のあとの意見交換で、そのことを講師に言おうかと思ったが、あまりにぼんやりした話なので、話題に出すことはできなかった。しかし、モヤモヤする気持ちは残る。
会合が終わり、懇親会に場所を移す。懇親会はなるべくなら参加したくないのだが、ホスト役の一人なのでそういうわけにもいかず、参加することにした。
僕は意を決して、その初対面の講師にその映画のタイトルを出して、「とくに8㎜フィルムの上映会をしてみんなが思い出に浸っていた場面が印象に残っていたんですよ。それが今日のお話と重なるような気がして…」と、唐突に言ってみた。
するとその方の表情がみるみる変わり、
「その上映会、映写機をまわしていたのは僕ですよ!」
と言った。
「えっ?ということは、あの映画に出演されていたということですか?」
「そうです」
なんと!!!!!
こんな偶然ある???その人は有名人というわけではなく、僕もつい最近その人のことを知ったばかりなのだ。
懇親会の参加者は、その映画を観たことがないようで、ぽか~んとしていた。それほどに、知る人ぞ知るという映画だった。だから僕も、なかなかその映画のことを切り出せなかったのである。
しかし思い切ってその話題を出してよかった。講演の内容とその映画がつながったことで、僕の中で視界が一気に広がった気がした。
「これってスピってますか?」
「スピってます」
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