アロハの街
11月1日(水)
自宅からE電と在来線特急を乗り継いで、3時間ほどかかる北の町に向かう。在来線特急からは時折海が見えた。
用務先の最寄りの駅には、お昼少し前に着いた。このままタクシーで用務先に向かってしまうと、お昼ご飯を食べるところが見つからないだろうと思い、少し早いが、駅前で昼食を取ることにした。
駅を降りると、駅前にさびれた商店街のような通りがある。いわゆるシャッター街と呼ばれるような通りを200メートルくらい歩くと、1件のカフェを見つけた。昔ながらの「カフェ」といった感じで、中を見るとそこそこ広い。メニューの看板を見ると、洋食やサンドウィッチ、定食など、ランチにはもってこいの店である。
お昼ご飯の時間には少し早かったこともあり、僕がその店には行ったときはお客さんがいなかった。
「開いてますか?」
「どうぞ、お好きな席に」
席に座って注文を告げると、ほどなくして、お客さんが次々に集まってきた。地元のお客さんたちに人気のお店のようである。
その中に一組、3人の男性がやってきた。明らかに地元の人だ。3人のうちの一人は、僕より10歳上くらいの小柄で白髪のおじさんで、「若い衆」とおぼしき二人を引き連れている。おじさんのたたずまいには少し威厳が感じられるが、それでいて決して威圧的ではない。
そのおじさんがお店に入るなり、店員さんは、
「あら、どうもお久しぶりです。ずっとお待ちしていたんですよ。お忙しいとは思っていましたけど、本当に久しぶりですねえ」
その店員が店の奥に入ると、今度は店の奥から別の店員たちが次々と出てきて、
「どうもお久しぶりです。まあわざわざ来ていただきまして」
と、入れ替わり立ち替わりそのおじさんに挨拶をした。このおじさん、地元では有名な人なのか?というか、このお店には店員が何人いるんだ?
おじさんは「やあどうも」というばかりで、決して口数が多いほうではなさそうである。時折二人の若者と話しているのをそれとなく聞いていると、決して威圧的ではなく、実に穏やかな語り口調である。
そのうち、後からやってきた夫婦らしきお客さんも、そのおじさんを見かけると、
「あら、まあ、お久しぶりです!」
とびっくりしたような表情でそのおじさんに声をかけた。
そのうちの女性の方が、
「そういえばあの件について、ちょっと相談が…」
と言って、そのおじさんの横に座って何やら話を始めた。
僕は不思議に思った。その女性は、カフェで偶然、しかも久しぶりに会ってビックリしたのもつかの間、そのおじさんに何かの相談をしているのである。もしそこでおじさんに会わなかったら、相談事はどうするつもりだったのだろう?
おじさんは、突然の相談にも、事情がわかっているような感じで、穏やかにその解決策を語り始めた。僕はますますその会話にのめり込んでいったのだが、注意深く聞いても、どんな話をしているのか、その内容がまったくわからなかった。
それでも、どうやら問題は解決したらしく、その女性は自分の席に戻っていった。
うーむ。このおじさんは何者なのだろう?
みんなが久々の再会に感激しているところを見ると、地元の有名人であることにはまちがいない。
この駅の近くは温泉街なので、温泉の関係者である可能性が高い。温泉街専属の歌手とか、役者とかなのだろうか?そう言われれば、どことなく橋幸夫を連想させる雰囲気を持っている。全然似てないけどね。
いや、それにしては、先ほどの女性の相談というのが、けっこう込み入っていたようだったぞ。プライベートな相談というよりも、街の問題に関する悩みという感じだった。
とすれば、市会議員とか、お役所の人間か?
しかし僕が見る限り、そんなふうにも思えない。威圧的な態度は微塵も見られないし、事務的な話法も使っていない。
なにより最大の疑問は、若者二人を含む3人の服が、いずれもアロハシャツだったということなのである。つまりアロハシャツを着て歩いていても違和感のない人。…役人ではあり得ないだろう。
会う人だれもが再会に感激し、突然の相談にも乗ってくれて、決して威圧的ではなく、若者たちにも穏やかに接する物静かなおじさん。いったいこのおじさんは何者なのか?
そうそう、ひとつ書き忘れていたが、この町はアロハシャツで歩いていても違和感のない町なのだ。なにしろ商店街には、ハワイアンの音楽がスピーカーから常に流れているのだから。
旅先の町の日常の風景に接して、あれこれと妄想することは実に面白い。飽きないねえ。
思いのほかそのカフェに長居をしてしまった。その3人が店を出た後、僕も急いで会計を済ませて、本日の用務先に向かった。
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