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最も雑な国際会議

11月10日(金)

以前、韓国の知り合いから、国際会議で何か話をしてくださいと依頼された。

その知り合いは、わざわざ私費で日本に渡航して、僕が手がけた今年春のイベントを見に来てくれたので、断るわけにはいかない。

「どんな話をすればいいのですか?」

「なんでもけっこうです。今年春のイベントについてお話しになってはいかがですか」

なんでもけっこう、って、その国際会議はいちおうテーマがあるんだろうに、なんでもいいということは、国際会議を開くことだけが決まっていて、あとはなりふり構わず登壇者を集めるということなのだな。

韓国では、3カ国以上の人が参加しないと「国際会議」とは名乗れないと聞いたことがあるから、明らかに僕はたんなる「数合わせ」である。

現地参加が原則のようだが、日程を聞くと、僕がとうてい韓国に行くことができない時期である。

「現地参加はできませんが、オンライン参加だったら参加できます」

と条件をつけたら、

「それでけっこうです」

と答えが返ってきた。ホントに、なりふり構わないんだな。

僕は、今年春のイベントにかかわる内容のお話をすることにし、韓国人にもわかるように原稿を作り直して送った。パワポも作ったのだが、先方が求めている内容なのかどうかわからない。

会議は2日間あるそうなのだが、自分がどの日時に発表するのかわからない。こっちは保育園の送り迎えがあるのだ。

しばらくして、「登壇日時は11月10日(金)の16時10分から30分程度です」という答えが返ってきた。と同時に、国際会議の2日間のタイムテーブルも送られてきて、僕のプレゼンは一番最後だということがわかった。ほかのプレゼンターの内容も見てみたのだが、それでもどうもよくわからない。ただ、明らかに僕のプレゼンだけが浮いているということだけはたしかなようである。

いつまで経ってもZoomのアカウントが送られてこないので、催促したら、直前になってアカウントが送られてきた。僕はそれを見てびっくりしたのだが、Zoomの設定、つまりカメラ機材の設定は11日(金)の13時~14時の間におこないますので、その時間に適当に入ってきてくださいとのことだった。

えええっ!!どうやらオンライン参加は僕だけで、僕の登壇時間の付近だけ、Zoomの設定をするということらしい。極端なことをいえば、僕は自分の登壇の時間だけ、この国際会議に顔を出せばよいということなのだ。

それはそれでありがたいが、手を抜きすぎだろ!

で、接続の状況とか画面共有の確認とかの必要上、午後の部が始まる14時少し前に入室したところ、案の定、会場の音声がひどく悪い。マイクを使っても、音声がぼやけていて何を言っているかわからないのである。どうやらZoomのホストアカウント用のノートパソコン1台を雑に置いているだけのようだ。会場の映像も、アサッテの方向を漫然と映し出している。

機材のトラブルを、韓国語で先方とやりとりするというのはかなり難易度が高い。日本語の通訳なんて、当然ながら用意されていないので、頼れるのは僕の貧弱な韓国語しかないのだ。うーむ。これは最大のピンチである。とにかく、自分のプレゼンの前に、ほかの人のプレゼンを見ながら対策を考えるしかない。

14時。午後の部が始まった。

登壇者は韓国人なのに、司会の韓国人はなぜか英語で喋っている。国際会議という体裁のためだろうか。

例によって、僕に会場のぼんやりした画面が見えるだけで、プロジェクタに映し出されたパワポはまったく見えない。だから内容が全然入ってこない。音声も途切れ途切れで聞こえない。この時間はいったい何なのだ?

案の定、各人のプレゼンは順調に予定時間をオーバーしている。こうなると気が気でない。席を離れることができず、ノートパソコンの画面に張り付いて、自分のプレゼンがいつ始まるのかを見極めなければならない。

僕の2人前のアメリカ人は、大げさに身振り手振りをしながら、ミュージカル「ウェストサイドストーリー」の話を延々としているようだった。そういえばスピルバーグ監督がリメイク映画を作っていたしね。話は、「ウェストサイドストーリー」と「ロミオとジュリエット」の近似性についても及んでいるようで、「それ、たしか映画評論家の町山智浩さんが『たまむすび』で言ってたぞ。町山さんの話を聞けば十分なんじゃねえの」といった感じの内容だったのだろう(推測)。

さて、僕の出番は、予定より20分遅れて16時30分からだった。「30分でお願いします」「わかりました」

最初だけ韓国語で挨拶をして、本題に入ると同時に写真いっぱいのパワポを使いながら日本語で話をした。原稿はすでに韓国語訳されているので、内容を理解する分には困らないはずだ。

ちょうど30分でプレゼンを終え、そのあとは討論者による質疑がある。これがいちばんの問題だった。通訳はいないし、会場の音声は途切れ途切れにしか聞こえてこない。その場でのヒアリングは絶望的に難しい。

そんなこともあろうかと、あらかじめ討論者から送られてきた討論文(韓国語)を読み、それに対する回答を考え、それをパワポに簡単な韓国語であらわし、画面共有しながら説明する、という方法を事前に思い付いた。こうすれば、日本語を喋って回答しても、先方が理解できないということはない。僕はまじめにそれを実行した。

討論者のコメントが始まった。予想どおり、討論者は自分のコメントをまくし立てるように早口で喋った。それはあまりに義務的なしゃべり方だった。耳をそばだてて聞いてみると、あらかじめ僕に送付した討論文をひたすら読んでいるようだ。

そのコメントが終わったかな、と思われるタイミングで、こちらもあらかじめ準備していた討論者の質疑に対する答えを、パワポを画面共有しながら説明した。一通りやりとりが終わると拍手が起こった。どうやら無事に終わったようだ。

この最悪で雑な環境で、よく破綻せずに終われたものだと、その奇跡に僕はドッと疲れがでた。画面の共有を停止すると、会場の様子が大きく映し出された。僕はそれを見て驚愕した。

会場には、討論者の先生のほかに、学生とおぼしき若者ばかり8名しかいない!偉い人たちはみんな、俺の話を聞く前に帰っちゃった!

討論者や学生は義務感から仕方なくでていたのだろうけれど、偉い人たちは、最初から僕の話なんぞ聞く気がなかったのだ。それどころか、僕をこの国際会議に呼んだ当事者の人も、会場にいなかった。なんという雑な扱いだ!

僕はいったい、だれに向けて話をしていたのだろう?

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