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日日是再会

12月15日(金)

人生の後半は再会の連続である。

調べものがあって、午前中は都内の小さな図書館を訪れた。正午の前に終わる予定だったが、どうも終わりそうになかった。やがて正午近くになって、午前中に対応していただいた女性の職員のみなさんがお昼休み休憩に入り、代わりにカウンターにひとりの白髪のおじさんが座った。

調べものは正午あたりになんとか目星がつき、カウンターのおじさんに、

「ちょっと他の本棚も拝見してよろしいでしょうか」

と聞くと、

「かまいません」

というので、その本棚のところへ行こうとすると、

「鬼瓦さんですよね?」

と、そのおじさんが言う。

「はい、鬼瓦です」

「覚えてますか?私、Iというものです」

と苗字を名のられたのだが、まったく心当たりがない。

「鬼瓦さんがいた研究室の卒業生で、鬼瓦さんの5~6歳上です」

なんと、研究室の先輩だったのか!しかし顔をまじまじと見ても、まだ思い出せない。

Iさんが僕のことを「鬼瓦さんですね」とわかったのは、僕が書いた申請書の名前を見ていたからだろう。それにしても、30年以上もお会いしていないのに、僕を同定できたというのがすごい。

「思い出せませんか。こんなに老けましたからねえ」

「それは私も同じですよ」

と言ってみたのだが、どうしても思い出せない。5~6歳離れているということは、在学中に顔を合わせたことがないはずである。

それからというもの、その人のことが気になって、調べものに身が入らなくなった。

必死に記憶の糸をたぐり寄せていくと、なんとなく思い出してきた。

そういえば、私より5~6歳ほど年齢が離れた先輩で、研究室に残らずに、卒業後に大きな図書館にお勤めになった方がいた。当然、研究室に残った僕とは没交渉のはずなのだが、その方は、卒業後も研究室の合宿に参加していたと記憶する。と、そこまで思い出して、その方がIさんという名前だったことまで思い出した。

なるほどそういうことかもしれない。Iさんは大きな図書館を定年退職になり、再雇用としてこの小さな図書館に異動になったのではないだろうか。そう考えれば説明がつく。

しかし「卒業後も研究室の合宿に参加していた」という記憶に確信が持てない。別のところでお会いしている可能性もある。

帰り際、入館バッジをお返しするときに、

「以前は大きな図書館にお勤めでしたよね」

と思いきって聞いてみると、

「そうです」

とだけお答えになった。やはり僕の記憶は間違っていなかった。間違っていなかったのだが、やはりお顔を見ても、当時の面影を思い出すことができない。それはそうだ、日常的にお会いしていたわけではなく、通算で2~3回しかお会いしたことがなく、しかも直接お話しする機会などまったくなかったのだ。

にもかかわらず、先方が私のことを覚えていてくれたというのは驚異的な記憶力だし、反対に僕がその先輩のことを覚えていないのは、何とも失礼な話である。

こんなふうに、僕が覚えていないだけで、見えない再会というのが頻繁に起こっているのではないだろうか。これからは「日日是再会」という言葉を胸に抱いて生きていく。

 

 

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