1月28日(日)
午後1時から、3月に行われる「卒園式」に関する会議が行われる。呼びかけ人は、ママ友有志たちである。
以前にも書いたが、うちの娘と同じ保育園クラスのママ友たちは、保育園の提供する通常の行事だけでは飽き足らず、自分たちでどんどん行事などを増やしていく。どこのママ友もそうなのだろうか?
地元の公会堂で1時から開始というので行ってみると、すでに会議が始まっていた。例によって、参加者16名のうち、ママ友が15名、パパは僕1人である。
どうしてママ友が主導権を握るのか?どうして意志決定からパパが排除されるのか?というのがいつも疑問で、それで僕は「バカなフリ」をしてママ友のみの会議に平然と顔を出すことにしたのである。
ママ友ばかり15人の中に入っていくことは勇気が要るのだが、「バカなフリ」をしているので恐いものは何もない。
今日の議題は、次の通りである。
①卒園式の時に、保育園と担任の先生に贈る花の可否
②子どもたちに記念品の可否
③卒園パーティーの可否
「可否」とあるが、以上の3つはすでにやることが決まっているので、いまさら反対するわけにもいかない。
卒園式というのは、3月21日(木)の午前中に行われる、保育園の公式行事である。子どもたちが歌を歌ったり、卒園証書を授与したりするという、おそらく1時間ほどで終わる簡素な儀式である。
ママ友たちは、それが気に食わないらしい。
「そんなのつまんな~い」
と一部のママ友が大声で駄々をこねたところからはじまり、あの手この手で卒園式を盛り上げようと考えた。それが、議題の①と②である。
①は、保護者たちが、保育園全体に対してと担任の先生に対して花束を贈るという提案で、保育園には大きな花束を、担任の先生にはそれなりの花束を贈ることになり、全部で2万円くらいの予算で花束を渡すことになってしまった。一見よさそうな提案だが、花束を渡すということは、だれかが花を注文して、花を取りに行くか届けてもらうかしなければならない。それだけ手間とお金がかかる。
②は、卒園式の時に保護者たちが子どもたちに向けて記念品を贈りたいという提案なのだが、そんなの、それぞれの家でやればいいじゃん!と喉元まで出かかった。なぜわざわざそんなことをする必要があるのか。
記念品の中身は、同じデザインの、かつそれぞれ自分の子どもの名前を入れた「鉛筆ひと箱」だということだった。鉛筆なんて、それぞれの家で買えばいいじゃん!と思うのだが、わざわざ同じデザインの鉛筆を作ることで、「小学校に行っても、保育園の友だちはいつも一緒にいるよ!」という意味を込めているという。
はぁ???意味がまったくわからないんですけど。というかそんなスピリチュアルな話、キモチワルイ!
卒園式はそれだけではない。卒園式の一部始終の様子を、業者にビデオ撮影してもらって、あとでDVDに焼いてみんなに配るという提案もなされた。なぜ業者に撮影してもらうかというと、保護者のだれかが撮影係になってしまうと、卒園式で一緒に感動できないから、だという。当然、その分の費用が保護者の負担となる。
するとこんどは、
「DVDに焼くのはヤダ!USBに入れたデータでほしい!」
と駄々をこねるヤツが出てきた。このあともそうなのだが、こいつはいちいちこのあとも自分のわがままを通そうとする。で、司会進行をしているママ友は、なんとかしてその意見をくみ取ろうとするので、どんどんと手間がかかる方向に進んでしまう。話し合えば話し合うほど、どんどんとお金と手間が増えていく。ダメな会議の典型である。重要なことなので2度言う。これはダメな会議の典型である。
③の「卒園パーティー」というのは、卒園式が終わったあとに、ママ友有志が主催するパーティーである。この日は平日なのだが、おそらくみんな終日休暇を取るだろうと推測して、午後に行うことが提案された。というかすでにお店も貸し切りでおさえたそうなので、反対する余地がない。
問題は、卒園パーティーを午後の何時から開始するかである。当初は午後4時から6時までの2時間として、卒園式が終わって、いったん家に戻って着替えをしたりしてクールダウンしてからパーティー会場に移動するというつもりだったようなのだが、また一部のわがままなママ友どもが、
「ええぇぇぇ?卒園パーティーも(着替えずに)おめかししたままやりた~い」
と言いだした。さあそこで、卒園パーティーを、いったん家に戻ってからお店に向かうか、それとも卒園式からそのお店に直行するかで、真っ向から意見が割れた。
ややこしいのは、別のヤツが、
「せっかくだから保育園の先生もよびましょう。謝恩会みたいな感じで」
と提案して、またもや場が盛り上がってきたのだが、僕はもう我慢できず、
「その時間、保育園の先生は勤務時間ですよ」
と反論した。午前の卒園式が終わってからも、保育士さんは午後に通常勤務があるのだ。この辺から僕はもう会議室のテーブルをひっくり返したい衝動に駆られた。
「卒園パーティーで何やりますか?」
「余興をやりましょう、余興を」
「スライドショーなんていいね」
おいおい、結婚披露宴かよ!!
「子どもたちの歌が聴きた~い」
「ママから子どもたちに歌のプレゼントがした~い」
「子どもたちが学芸会の時にやった劇を、パパたちにやってもらいた~い」
「ビンゴゲームをした~い」
「プレゼント交換をした~い」
「クイズをした~い。パパとママの小さい頃の写真を持ってきてもらって、『これはだれのパパ(ママ)でしょうか?』っていうクイズ~」
とまあ、次から次へとわがままな提案をしてきた。
卒園パーティーは、お店の都合で2時間しか貸し切りができないのだ。しかも、余興を考えれば考えるほど、そのための手間を増やすことになる。何度でも言うが、ダメな会議の典型である。
この中で「プレゼント交換」という提案が残ったが、具体的にどのようにするのか、まったく話がまとまらない。500円くらいのお菓子をそれぞれ買って交換したらどうか、と言うところまでは話が進んだのだが、そこから先、やれ包装はどうするかなど、細かい議論が始まって、いっこうに埒があかない。業を煮やした僕は、
「『まちおか500円チャレンジ』でいいんじゃないっすか?」
と思わず発言した。
「何ですかそれ?」
「知らないんですか?いま巷では『まちおか1000円チャレンジ』ってのが流行っているんですよ」
「知りません」
そりゃそうだ。TBSラジオ「東京ポッド許可局」のヘビーリスナーの間でしか流行っていないのだから。
「お店を『まちおか』に決めて、そこで500円以内のお菓子をそれぞれチョイスするのです。それを交換すれば、不公平がないでしょう?」
だれかが、
「『まちおか』の回し者ですか?」
と聞いてきたので、
「回し者です」
と答えてやった。
その提案が通るかはわからないが、おそらく通らないだろう。
最後にひとつ、ママ友の間で、こんな会話が交わされていたのを耳にした。
「卒園パーティーで子どもたちに歌ってもらおう」という提案の中で、何の歌を歌ってもらおうかという話題になった。さまざまな歌が提案されたが、なかに、
「やっぱり『一年生になったら』がいいんじゃない?」
と言った人がいた。すると僕の隣に座っていたママ友が、
「あの歌ですか…。『友だち100人できるかな』という歌詞は、友だちは多いほどよいという特定の価値観を押しつけているので、あんまりよくないんじゃないかという人もいますね…」
とぽつりと言った。僕も、たしかにそのとおりだと思った。するとそのまた隣に座っていたママ友が、
「そんなこと言ってるヤツには『黙ってろ』と言いたいわよ!」
と、声を荒げていた。そんなことぐだぐだ考えずに歌えばいいのよ、ということなのだろう。
結局、子どもたちが歌うという余興自体は行わないことになったが、それにしてもどんなディストピアなんだ、この世界は。
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