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タイムスリップ映画館

1月18日(木)

朝、在来線と新幹線を乗り継いで2時間ほどかかる地方都市を訪れる。

ほんとうは人知れず用務を済まそうとしたのだが、以前、その町でお世話になった人に連絡を入れたところ、「午前も午後も予定が入っていますが、お昼休みだけ空いておりますので昼食を奢ります」と言われ、恐縮してしまった。

午前中、1時間弱ほど用務をおこなっていると、11時半になってその方が午前の仕事を終え僕の用務先にやってきた。

「どうもご無沙汰しております」

「その節はお世話になりました」

僕の用務は、その人は直接関わっていないのだが、同じ部屋に、その人の部下として若者が1人いた。その人は、部下の若者を私に紹介したのであいさつをすると、

「実は、以前お会いしたことがあります」

「いつですか?」

「10年以上前に、韓国に行った時に、大学のゼミで、バスを仕立てて韓国に押しかけたことがあったでしょう?」

「ええ、覚えています。私が留学していた時ですね。あのときは大勢の教員と学生が来てたいへんでした」

「あの中の1人に、私がいたのです」

「そうでしたか」

世間はほんとうに狭いものだ。

「ゆっくりご覧になりますか?」

「いえ、午後もご予定があるのでしょう?時間がないので、昼食に行きましょう」

「今日はこの建物内の食堂が閉まっているので、外のお店にご案内します」

外か…。幸い、天気もいいし暖かい。しかしどれくらい歩くんだろう?このところずっと足が痛かったので、徒歩移動にはつい敏感になってしまう。

その方のお話を聞きながら10分ほど歩いただろうか、ある小さな定食屋に着いた。入ると、さまざまな芸能人が訪れたとおぼしきサイン色紙がズラッと貼られていた。

「お店の構えは古びていますけれど、地元では人気のお店です」

なるほど、たしかに個性的な定食で、味も悪くないので満足した。

気取ったお店ではなく、勤め人がお昼にささっと食べるようなお店なので、滞在時間は30分ほどだが、食事の間もその方はあれこれとお話になる。話題の尽きない方で、僕はひたすら相づちを打つことに徹した。

用務先に戻ろうとする道すがら、僕は、

「そういえば、この町に古い映画館があるそうですね。いまもあるのでしょうか?」

「ええ、ありますよ。行ってみますか?」

「え?近いんですか」

「ええ、歩いて15分くらいですので近いです」

15分か…。足の痛い僕は歩けるだろうか、ちょっと不安になった。

「あ、でも、午後の予定が…」といってその方が時計をみたら、12時10分をさしていた。

「大丈夫ですね。午後の予定は12時45分だから、十分間に合います」

というか、けっこうギリギリな時間である。

その映画館に行く道中は、「昭和」の雰囲気を残している何とも懐かしいアーケード街で、その方の案内を聞きながら歩いていると、タイムスリップした気持ちになった。

15分ほど歩いて、念願の映画館に到着した。

「ここは消滅の危機にありましたが、地元の人たちの運動により残されたのです。毎日上映をするというわけではありませんが、週末などの特定の日に古い映画を上映しています。年末年始は『寅さん』をやっていたんですよ」

たしかに、映画館の外側の壁には「寅さん」の映画の看板が掲げられていた。

滞在時間は数分。「さ、戻りましょう」

そこから、また別の古い街並みを歩きながら、その方はいろいろなお話をされた。考えてみたら、その方は再会した11時半からずーっとお話をされていて、愚鈍な僕はそれにただただ相づちを打つことしかできなかった。もっともお話の内容は、地元の町に関する僕の知らない話ばかりだったので、どの話も新鮮で、まったく飽きることはなかった。

急ぎ足で歩いたおかげで、もとの用務先に戻ったのは12時40分。なんとか先方の午後の所用の時間に間に合った。

「どうもありがとうございました」

「またお会いしましょう」

と、その方は去っていった。僕は引き続き午後も用務を続けたが、僕の足はすっかり「棒」のようになっていた。

たいして歩いていないのに、こんなに疲れるものだろうかと、僕は自分の体力がかなり落ちていることにショックを受けた。

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