5月22日(水)
手元のスマホのアプリでは、17時56分に学童の退室記録があるから、いつものように18時過ぎに小1の娘は学童保育から帰ってくるだろう。
ふだんは、娘が帰ってくる頃にマンションの外に出て様子を見る、なんてことはないのだが、今日はたまたま時間があったので、久しぶりにマンションの外に出て娘が帰るのを待っていたところ、いつもの帰り道の遠くの方から、5~6人の小学1年生が歩いてくるのがみえた。その中に娘もいた。まっすぐで幅の広い遊歩道を歩いてくるものだから、
(まるでGメン75だな…)
と思いながらこちらに来るのを待っていると、その5,6人の小学1年生は、帰り道から外れて、駐在所の方に歩き出した。
僕は通りの反対側から(なんだなんだ??)と見ていたら、そのまま駐在所に入ろうとしているではないか!
(どうしたんだ?何かあったのか?)と思っておーい、と声をかけ、娘のところに行くと、
「これが落ちてたの」
と、小さい子用の小さなピンクのヘアゴムが娘の手に握られていた。何の変哲もないヘアゴムである。
「それでね、警察に届けようと思って」
落とし物は警察に届けなければならないと教わったらしい。
なるほど、それでみんなが駐在所に入ろうとしていたのか。しかしあいにくおまわりさんは不在である。というか、ここの駐在所でおまわりさんを見たためしがない。
「パパ、名探偵でしょ、解決してよ」
と娘が言うと、まわりのお友だちも、
「名探偵なの?」
と娘に聞き、娘も「そうだよ」と答えた。
日ごろ僕は、娘に対して自分の職業は「名探偵」だと言っているので、それを信じているらしい。しかもほかのお友だちにもそのウソを信じてしまった。
「名探偵なら、事件を解決してよ」
事件、て。
「よしわかった」乗りかかった船だ。「そもそもそのヘアゴムはどこに落ちてたの?」
「じゃあ事件現場に案内します。…みんな、事件現場に戻ろう!」
事件現場、って…。面倒くさいことになってきた。
きびすを返して、子どもたちが帰ってきた道を戻ることにした。
そのあいだじゅう、そのメンバーで唯一の男の子であるユイト君は、すれ違う人すれ違う人に、
「このヘアゴムに心当たりはありませんか?」
と聞き込みをすることに余念がない。もちろん、聞かれた大人たちは、「さあ、わからないねえ。ごめんね」と答える。
そうこうしているうちに「事件現場」に到着。ベンチの上に落ちていたらしい。
僕はなんとかこの場を収めるべく、
「ひょっとしたら、持ち主がヘアゴムを落としたことに気づいて、このベンチに探しに来るかもしれないから、このベンチに置いておいた方がいいよ」
と提案したが、娘は頑として聞かない。「落とし物は警察に届けないといけないんだよ。それにベンチに置いておいたら風に飛ばされちゃうでしょ」
「わかったわかった。じゃあ届けるから、その代わりみんなは早くおうちに帰るように!」
と、お友だちをおうちに帰して、再び娘とともに駐在所に向かった。ただ、帰り道が一緒だったユイト君とユイト君のパパもついてきた。
駐在所に戻ると、やはりおまわりさんは不在である。
僕はなんとか諦めさせようと、
「じゃあいったんこのヘアゴムは持ち帰ろう。明日の朝早く、またおまわりさんに届ければいいんじゃない?」
とおよそ非現実な提案をした。
「…もう帰ってもいいですか?」
ユイト君のパパは、しびれを切らして言うので、
「どうぞどうぞ。あとはこっちでやりますから」
と言ってユイト君親子にも帰ってもらった。
自宅に戻り、娘がママに相談すると、
「ヘアゴムを落としたお友だちが、落としたベンチに取りに来るかもしれないから、やっぱりベンチに戻そうよ。なくならないようにヘアゴムをビニール袋に入れて、ベンチに貼り付けておけば大丈夫だよ」
そうか、その手があったか。これには娘も納得した。ヘアゴムをビニール袋に入れて、ビニール袋にサインペンで「おとしもの」と娘が書いた。
そこで再び、マンションを出て、ヘアゴムが落ちていた「事件現場」のベンチに向かった。
(何度もこの道を往復をして、俺は何をやっているのだ…)
ベンチに着くと、「おとしもの」と書いたビニール袋をテープでしっかり固定した。
「よし、これで大丈夫!持ち主に戻るといいね」
「うん」
娘も、落とし物のヘアゴムをずっと手に持っていた重圧から解放され、晴れやかな気分になった。
落とし物だけに、妻は落とし所を見つけて見事解決。
「名探偵」はパパではなく、ママだよ。
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