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最弱は最強なり

7月2日(火)

毎週火曜日は1週間のうちでいちばん忙しい。今日もヘトヘトになって夜遅くに帰ってくると、封書が届いていた。僕が会員になっている「前の勤務地」の手作りの会誌である。

それは僕が「前の勤務地」で大変お世話になった人生の大先輩たちが、2カ月に1度、ワープロソフト「一太郎」を駆使してB4の紙を二つ折りにして作る4ページほどの短い会誌なのだが、毎回地元に関する記事を3ネタくらい、欠かさず載せていた。

僕はあるとき、その会誌の存在を教えていただいたのだが、そのときは秘密結社や地下組織の会誌といった趣だった。なぜなら会則もとくに定めず、会員が10人ほどしかいないと言われたからである。その10人の間だけで、これほど情報量の多いミニコミ誌を作っているのかと感動し、僕はさっそくその「秘密結社」に入会し、これまで4度ほどそこに文章を寄せた。

あるとき、その「秘密結社」から分厚い本が送られてきた。会誌のバックナンバーを合本にした立派な装幀のものだった。なるほど、ちりも積もれば山となる、継続は力なり、とにかく毎号毎号はささやかなミニコミ誌でも、まとまるとこれほどのインパクトのある本になるのかと、さらに感動した。

そしたらその合本が、地元の出版文化賞を受賞した。今日送られてきた最新号にはその授賞式と受賞記念の講演会の様子が紹介されていた。会員10名の秘密結社的な団体の会誌が、正当に評価されて日の目を見たのである。

受賞記念の講演会では、代表者がこれまでのバックナンバーの中から18篇のエピソードを紹介したそうで、その18篇のエピソードのタイトルが会誌に紹介されていたが、その中に僕の書いた文章が2篇ほど含まれていて、ちょっと誇らしかった。

たった10人のための会誌が出版文化賞を取ったことを、快挙と言わずして何と言おう。

「最弱」という言葉が好きだ。

以前、前の勤務地でボランティア活動をしていた頃、自分たちのことを「最弱のボランティア団体」という紹介の仕方をしていた。自虐的な意味ではなく、本当に、確固たる基盤を持たない団体だった。だがそのときも、地道な活動が認められ、ある役所から表彰状をもらった。別にほめられたくてやったわけではないけれど、「最弱の」団体でも正当な評価を得られるのだという体験は、少なくとも僕にとってはその後の生き方の指針となった。

「弱国史」を作りたい、とは、僕の知り合いの編集者の口癖だった。

教科書にも登場しない、だれからも忘れ去られてしまった国、そういう国のことを本にしたい、というのが長年の夢だったようだ。それは編集者自身が立ち上げた「最弱の出版社」だからこそできる本であるという確固たる自信にもとづいていた。

しかし志半ばで彼はこの世を去った。彼の手でその本を作る機会は永遠に失われた。

そしてその遺志を受け継いだ人たちが、近々その本を出すという。そこもまた「最弱の出版社」の人たちだ。

「最弱」とは、自虐でも卑下でもない。誇りなのだ。

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