« アイス論 | トップページ | エアコン交換 »

カレーの思い出

9月13日(金)

まことに芸のない話と思われるかもしれないが、夕食を何にするか困ったときにはカレーを作る。といっても本格的なカレーではない。豚バラ肉とタマネギとニンジンとジャガイモを入れて、ルーを加えて作るもっとも家庭的なというのか、基本的なカレーである。ほんとうは辛いカレーが好きなので、ジャワカレーの辛口あたりのルーを使いたいのだが、小1の娘がいるので辛くすることはできず、ハウスバーモンドカレーの甘口のルーを使っている。明日から3連休であることもあり、できるだけたくさん作って休日の夕食もまかないたいというセコい考えもある。

カレーについては、ちょっとした思い出がある。

高校時代は吹奏楽団に所属していた。同じパートにはコバヤシという奴がいて、これがウマが合うんだか合わないんだか、とにかく親しくなり、いまも親友という位置づけである。もっともいまはめったに会うことはない。

コバヤシは高校時代からなかなか大人びていて、ジャズ音楽に傾倒したり、文学に詳しかったり、食べ物にもこだわったりしていた。なかでも高校時代にカレーを作ることに目覚めた。それはインド風のチキンカレーで、当時の僕にとっては未知の食べ物だった。

楽器のパート練習の合間にその話が盛り上がり、そのインド風のチキンカレーを作ってカレーパーティーをしようなどという提案がどこからともなく出された。コバヤシと私と、1学年下の後輩数人がメンバーで、カレーパーティーは持ち回りで参加メンバーの自宅ですることとなった。

もちろんパーティーは週末におこなうこととしたが、大変なのはパーティー会場となるメンバーの自宅である。この日ばかりは、ほぼ一日、家を空けるために家族にどこかに行ってもらわなければならなかった。あと、会場となる家の参加メンバーは、当日までにカレーを作るのに必要な食材を揃えなければならなかった。もちろん材料や分量はコバヤシの指示である。で、コバヤシは当日、カレーを作る寸胴の鍋と香辛料を持ってくれば、これですべてカレーを作る準備が整うことになる。

午前中から集まり、最初は大量のタマネギをみじん切りし、それをカレー鍋に入れて弱火で焦げないように炒めなければならなかった。当然、鍋に入れっぱなしにすればOKというわけではなく、ひたすらタマネギのみじん切りが焦げないようにヘラだかシャモジだかを使って、つきっきりでタマネギをかき回さないといけない。つまり鍋のそばから片時も離れることはできないのである。当然一人だけが担当するわけではなく、交替でタマネギをひたすら炒めていたと思う。

何時間かすると、大量のタマネギのみじん切りが半分以下の量に減り、その色も飴色になる。コバヤシは適宜鍋の中を覗き、「これでよし」と許可が下りてはじめて、鍋の前から解放されるのである。

そのあとの手順はすっかり忘れてしまったが、ヨーグルトにつけ込んでいた骨付きチキンをヨーグルトごと鍋の中に投入していたと思う。香辛料をブレンドして投入するのはその後だったか?とにかくこのカレーパーティーのおかげで、コリアンダーとかクミンだとかカルダモンとか、香辛料の名前を覚えることができた。そして、たしかガラムマサラは最後に入れるということも教えられたと思う。後年(1991年)、デンゼル・ワシントン主演の映画「ミシシッピー・マサラ」を映画館で観たときに、タイトルにある「マサラ」とは、インド料理で使われるミックスされた香辛料という意味で、多様な文化が混じり合うことの象徴だという説明を聞いて、なるほどと思ったことがある。

とにかくそんなこんなで、ようやく食事にありつけるのが午後の遅くになってからというくらい、時間をかけてカレーを作ったのである。

それでもこのカレーパーティーはなかなかの好評で、高校を卒業してからも年に1回だったか半年に1回だったか、だれかの家を貸し切って同様のパーティーがおこなわれた。20代半ば頃まで続いたと思う。しかしその後はみんな忙しくなり、そんなパーティーのことは忘れてしまった。

最近になって、たんなる郷愁からだと思うが、そのカレーパーティーを復活したいという希望が後輩からどうやら出されているようだったが、もちろんコバヤシも僕も、そんなことはまったくやる気がないので無視している。復活することはないだろう。

で、冒頭の夕食の話に戻る。僕がコバヤシのカレー作りから学んだほとんど唯一のことは、

「タマネギを炒めれば炒めるほどカレーは美味しくなる」

ということだった。そのことがつねに念頭にあったので、若い頃は自分でカレーを作るとき、ルーを使ったとしてもタマネギを炒め続けることにはこだわった。いまはすっかりそんな元気はなくなってしまったが、いまでも短時間ながらタマネギがかなりしんなりするまでフライパンで炒めてから鍋に移すことにしている。

だからたとえ市販のルーを使っても、僕の作ったカレーは美味しいと思っている。実際小1の娘は「美味しい」と言ってくれた。ま、もともとカレー好きではあるのだが。

|

« アイス論 | トップページ | エアコン交換 »

思い出」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« アイス論 | トップページ | エアコン交換 »