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救世主あらわる

10月11日(金)

会合は午後からだったので、午前中は在宅でもある程度できる仕事を済ましてから職場へ車を走らせた。

走行中に電話が鳴った。ハンズフリー通話に設定していたので電話に出ると、先日取材を受けた記者さんからだった。

「突然で申し訳ありませんが、14日の祝日に追加の取材をお願いできますか?」

その記者さんは、新幹線で1時間半ほどかかる中核都市の支局に勤めていて、ある事情により数日間、東京本社で業務をすることになったそうである。平日は当然その業務にかかりきりになるから、祝日ならば追加取材ができると思って提案してきたのだろう。

僕は逡巡した。明日からの3連休のうち、最初の2日は私の職場がホスト役になる会合を開くことになっていたからである。このうえ、3連休の最後の日も出勤するとなると、3連休ならぬ3連勤になってしまう。先ずは家族の許可が必要だ。

それよりなにより困ったのは、先方はちょっと面倒な条件を出してきて、それが僕だけでは判断できない条件なのだ。

とにかく、いまこの場で判断はできないので、職場に着いてから諸方面と調整をとらなければならない。

金曜日ということもあり、高速道路は渋滞していて、職場に着いたのは会合が始まる20分前だった。この20分の間に、家族に3連勤の許可をもらい、先方の出してきた条件について、取材の話を持ってきた部署に相談のメールを書いているうちに、会合の時間になった。

会合は思いのほか長くかかり、2時間の予定が2時間半以上かかってようやく終わった。

仕事部屋に戻ると、相談した部署から返信があり、「この取材は取り次ぎはしたけれど、ご本人の判断で受けた取材であるため、当方はいっさい関知しません。他の部署をあたってください」

と言われた。そうだった。そういえば最初の段階で「取材を受けるんだったらご本人の判断で受けて下さい。こちらは関与しません。その代わり情報だけは下さい」と言われていたんだった。

そこで別の部署にメールをすると、しばらくして若い社員が仕事部屋に来て、

「本来ですと、取材する方に申請書を提出してもらって、その決済が降りるまで少なくとも1週間はかかります。あと、その条件だと休日に対応できかねますので、平日に変えてもらって下さい」

と言われた。しかし先方は平日はかなり難しい様子だし、いまから決済が下りるまで1週間かかるとすると、早くても再来週になってしまう。しかし先方は2日後に追加取材したいと言ってきている。

…うーむ。これは八方塞がりだな。それほど大げさなことでもないのに、手続きに1週間かかるなんてなんだかなあ、これはもう追加取材を中止してもらうしか手はないな、と思いはじめた。そのときの僕の顔は、明らかに不機嫌そうな顔になっていたと思う。しかし、その規則を教えてくれた若い社員にはまったく罪がないのだ。なぜなら職務に忠実だから。それは入社して間もない社員として当然の対応だった。

「もうあきらめます…」と言いかけたところ、廊下をこちらに走ってくる音が聞こえた。同じ部署の、やはり若い社員である。

「話は聞きました。先方にもいろいろ事情があるだろうし、これこれこういうふうにしたら問題ないと思います」

と、裏技を教えてくれた。

そうか、そういう手があったか、と僕は胸をなで下ろし、ひとまず14日の祝日に追加取材の対応をすることが可能になった。僕は突然現れた救世主に感謝した。入社して5年ほどの若い社員は、いろいろな経験を積んで臨機応変に対応する術を身につけたのだろう。

この件は、誰も悪くないのだ。先方の記者もその日くらいしか追加取材できる日はないので、これも悪気があったわけではない。

しかし先方への返信には、

「あまりにも急な話だったので、調整に手間取りました」

とひと言イヤミを書いてしまった。

やれやれ、と思ったら、その後も些細なトラブル、というかトラブルの種になりそうな案件について別の部署の人が相談してきて、

「些細なことでも、対応が遅れると大きなトラブルを引き起こしかねないので、できるだけ早く対応を考えましょう」

と、連休明けの全体会議の後に打合せの機会を設けることにした。

ああ休みたい。

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