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届かなかった手紙

10月16日(水)

夕方、小1の娘がうなだれて帰ってきた。

娘は学童保育から帰ってくると、ランドセルを玄関に置いて、そのまま友だちのところへ遊びに行く、というのが日課になっている。3人の友だちだ。

しかし今日はうなだれて帰ってきた。

「どうしたの?」

と聞くと、

「3人のお友だちにお手紙を書いたんだけれど、3人ともに『いらない』と言われた」

そう言うと娘は、渡すはずだったその手紙をゴミ箱に捨てた。

「絶対に読んじゃダメだよ」

ひどい話だ。そんなことってある?せめて受けとるくらいはするだろ!…と、こっちは頭に血が上ってしまった。

娘は自分の気に入った人にお手紙を書くのが好きだ。保育園に通っていた頃、TBSテレビのドラマ『石子と羽男』というドラマが好きすぎて、ドラマが終わってから、石子役の有村架純さんと、羽男役の中村倫也さんと、石子の父親役のさだまさしさんの3人に、ファンレターを書いて投函したことがあった。まあそれは極端な例だが、日常においても友だちに手紙を書いて渡すことを楽しみとしていたようだ。

しかし、いつも遊んでいる3人から、「いらない」と言われたら、そうとうなショックだろう。もちろん、他の友だちにも手紙を書くことがあり、たいていは受けとってくれるのだが、この場合、受けとらない意味がわからない。

さあ、お風呂で僕の道徳の授業が始まる。

「○○さん(娘のこと)は、そのお友だちと遊んでいるとき、楽しい?」

「楽しい。でもボク(娘は自分のことを「ボク」と自称している)がしたい遊びはやらせてもらえない…」

学童の個人面談で、娘が決して自分から遊ぼうと提案せず、ほかの人の遊びに自分を合わせる傾向にあるという、保育士の言葉を思い出した。

3人は近くに住んでいて、以前から仲良しだったところに、うちの娘が入ってきたものだから、娘はちょっと疎外感を抱いているのかもしれない。かといって、遊んでくれるお友だちはほかになかなか見つからない。

「ひょっとしたら、その3人は手紙をもらい慣れていないんじゃないのかなあ」

3人には罪がないのではないか、という仮説も立ててみた。

すると、娘は妙なことを口にした。

保育園の時、お友だちに手紙を渡そうと思ったら、先生に叱られたのだという。保育園の中では、個人的に手紙のやりとりをしてはいけないのだそうだ。

そして小学校も、教室の中では個人的に手紙のやりとりをしてはいけないことになったいるそうだ。その代わり、学童ではそんな決まりはないという。

ホントかよ!僕はビックリした。小1の娘の言うことだから、必ずしも正確な言い方ではないにしても、僕には信じられなかった。むかしからそうだったっけ???

「じゃあさあ、その3人のお友だちは、手紙を受けとると叱られると思ったから、受けとらなかったんじゃない?」

…苦し紛れの仮説である。第一ほかのお友だちは受けとってくれるのだ。

娘はまだ腑に落ちないという顔をしていたので、

「でも、○○さん(娘)のやったことは正しいよ。手紙を書いたりすることは優しい気持ちだし、自分が遊びたいことをガマンしてほかのお友だちの遊びを一緒に楽しむことも大切なことだよ」

と言ったら、少し腑に落ちたようにみえた。

お風呂からあがると、

「今日はいい日ではなかったなあ」

と娘がつぶやいた。

「いいことを教えてあげる」

「なになに?」

「今日のことを忘れたいんだったら、いまから歯を磨いて、洗面台の前で顔をゴシゴシ洗って、早めに寝ることだよ。そうしたら、明日の朝にはすっかり忘れるよ」

まったく根拠のないことを言ったことに罪悪感を抱いてしまったが、娘は、その通りに行動をして、すぐに寝てしまった。

娘は3人のお友だちにどんな手紙を書いたのだろう?

ほんとうはやってはいけないことだとわかっているのだが、ゴミ箱に捨てられた3通の手紙をとりあげてみると、折り紙で作った封筒に手紙が入っていた。折り紙で作った封筒は決して上手とはいえなかったが、心のこもったものであることには違いなかった。

手紙の文面は、3人とも同じだった。

「○○ちゃんへ

いつもあそんでくれてありがとう。そのかわりにおりがみをあげるよ。ひとつえらんでね。ありがとうありがとう。

○○○○○より」

娘は、3人のお友だちに「遊んでくれてありがとう」と、感謝の気持ちを伝えたかったのだ。

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