« 週末の病室 | トップページ | キング·オブ·積ん読 »

便座

尾籠な話で恐縮だが。

4人部屋の病室の共用トイレに入ると、ある日を境に便座が上がったままになっていた。犯人はわかっている。同室の70代の男性だ。彼がこの病室に入ったその日から便座が上がっていた。というより4人部屋の病室には僕とその男性しかいないのだ。

昔は洋式トイレのことを「腰掛便器」と呼んでいて、男性が小用を足すときは、便座を上げて立ってするのが「常識」だった、というより推奨されていた。今では考えられない。今は洋式トイレで男性が小用を足すときは便座に座ってすることが常識になっていると思う。僕もそうしている。とくに共用トイレであればなおさらだ。

しかもその男性は小用を足したあと、便座を上げたままトイレを出ている。頑なに便座を戻そうとしない。それがちょっと不快だった。

武田砂鉄さんの『マチズモを削り取れ』(集英社文庫、2024年、初出2021年)のなかに、「それでも立って尿をするのか」という章があり、居酒屋とかコンビニとか、とくに男女共用のトイレの便座が上がったままになっているケースが多いことを指摘している。女性が使うことを想定せずに男性が使っていることの証左だ。つまり上がったままの便座とは男性優位社会の象徴である。

たぶんその70代の男性は、これまでしてきた通りに、病室の共用トイレに対しても同じことをしているのだろう。それで許されていた社会に守られてきた。これからも何の疑いもなく便座は上げたままにするのだろう。

|

« 週末の病室 | トップページ | キング·オブ·積ん読 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 週末の病室 | トップページ | キング·オブ·積ん読 »