耳栓·その4
12月6日(金)
カーテンを隔てて隣にいる「2代目もしも~しおじいさん」は、日に日に支離滅裂なことを叫んでいる。
人間ってあんなにアッサリと壊れていくものなのかと驚きを禁じ得ない。
叫んだところでその声は看護師さんには届かない。ナースコールを連打することも忘れたらしい。「もしも~し」のムダ打ちをして、その被害に遭うのはこの僕である。
自分が病院にいることも忘れている。ホテルに泊まってると思い込んでいる。知り合いはみんな自分のまわりにいると思い込んでいて、「もしも~し」のあとに、知り合いとおぼしき人の名前を叫んでいる。いや、ほんとうは知り合いの名前かどうかすらわからない。
毎食は、自分一人では食べられないので、ナースステーションで車椅子に乗って移動し、たくさん人のいるところで食事をする。
不思議なことに食事から帰ってくると、一瞬回路がつながったように看護師さんとの会話が成立している。ここから学ぶことは、少しでもいろいろな人と場をともにすることは、社会性やコミュニケーションを維持するいちばんの薬ではないかということだ。しかし食事から戻って看護師さんがいなくなると、とたんに元に戻ってしまう。
お連れ合いの方が時々面会にやってくる。声を聞くとやはりご高齢の方のようである。イヤでも耳に入ってくるのだが、どうもご自宅から病院までは公共交通機関を乗り継いで片道2時間かかるという。なので向かいの家の「チバさん」という人に車で送ってもらうことが多いらしい。
不思議なのは片道2時間、往復4時間かけて面会に来るお連れ合いが、10分そこそこで帰ってしまうことである。会話が成立しないので顔を見るだけで帰るのかも知れない。もう少し長く居れば会話の回路がつながるのではないかととも余計なお世話を焼いてしまうが、お連れ合いの方も来るだけで疲れてしまうのかも知れない。
そんなわけで1カ月以上も病室にいる僕もメンタルをやられつつある。しかし最近この相部屋の病室に入ってきた患者さんの既往症を看護師さんとの会話の中で聞くとはなしに聞いたら、いくつもの修羅場をくぐり抜けている僕よりもはるかに多くの修羅場をくぐり抜けきたようで、それでも声の調子から平然としているようすを聞き、こんなことでは修行が足りぬと自分に言い聞かせたのであった。
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コメント
はじめまして。「もぎさい代行サービス」の鷺田(サギダ)と申します。
この度、鬼瓦様におかれましては、弊社アルバイトにご応募頂きありがとうございます。
早速ですが、鬼瓦様には「申し込み電話受付」をご担当頂くこととなりました。
具体的には、病気療養その他の理由で模擬裁判をご覧になれず、有罪か無罪かをお知りになりたいお客様からの申し込み電話をお受け頂き、利用料金の受け渡し場所をお伝えする業務となります。
なお、業務には鬼瓦様がお持ちのスマホをお使い下さい。
アルバイト謝礼は弊社から銀行振込となりますが、確実に振り込まれたかを各自でご確認頂くことになっております。
しかしながら、鬼瓦様は病気療養中で外出が難しいとのことでしたので、弊社の鴨田(カモダ)という者がそちらへ伺いましたら、お手数ですが鬼瓦様のキャッシュカードと暗証番号のメモをお渡し下さい。弊社でアルバイト料振込の有無を確認いたします。
念のため、鬼瓦様がお持ちの実印とクレジットカードも、鴨田に背負わせて頂ければ助かります。
では、今後ともよろしくお願いします。
投稿: 🐢 | 2024年12月 6日 (金) 23時00分