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好青年医師

12月4日(水)

毎週水曜日は感染症科の外来診察がある。

外来診察といっても、感染症科の主治医の先生と若手の医師たち数人が病室に回診に来るという形なので、僕はその場にいればよい。ただしその時間は主治医の先生次第なので、いつ来るのかわからない。

その前の午前中に、先兵として若い医師が一人来て、「体調はいかがですか?」と聞きにくるのが回診の段取りのようだ。

午前中、ベッドに座って本を読んでいると先兵の若い医師が来た。

「体調はいかがですか?…あ、あの本は読み終わりました?」

キング·オブ·「積ん読」本を読んでいたときにその本に反応を示してくれたあの若い青年医師か!

「ええ、なんとか読み終わりました」

「そうですか。すごいなあ」

素直に驚いている様子だった。そしてテーブルの上にあった本に気づいた。

「今度はどんな本を読んでいるんですか?ずいぶん分厚い本ですね」

本にブックカバーをしていたので、そのブックカバーをはずして本のタイトルを見せた。

「難しそうな本ですね…」

青年医師は著者の名前を知らないらしい。

「いえいえ、そんなことはありません。この著者は探検作家で、人の行かないようなところに行って、その冒険譚をわかりやすく面白く書いているんです」

私はその本の内容について少しばかり話した。少しよけいなことを話しすぎたかも知れない、と後になって反省した。しかし青年医師は辛抱強く聞いてくれたようだった。

「僕にも読めますかね」

「大丈夫ですよ」

「それにしてもすごい数の付箋がついてますね」

今度は付箋に気が付いた。僕は昨年あたりから、100円ショップのセリアで売っている「フィルムふせん」という極細の付箋を愛用するようになった。付箋をつけながら読むことがすっかり習慣となった。

「大事かなと思うところや印象的な言葉だなと思ったところに付箋をつけているんです」

それにしても興味を持って聞いてくれるという姿勢が実に嬉しい。

「その本、あとでチェックしてみます」

と言って去っていった。何という好青年だ。

午後になって主治医の先生は、その好青年医師を含む数人の若手医師を連れて回診にやって来た。もちろん回診の間、その好青年医師は一言も発せず、型通りの回診が終わると帰っていった。

本の話はいわば二人だけの秘密の会話だ。些細なことだが、それだけでも楽しい。

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