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津波警報

7月30日(水)

カムチャッカ半島でマグニチュード8.7の地震が起こり、その影響で朝から太平洋岸に津波警報が出た。東日本大震災のときのことを思い出して、内陸部に住んでいたとしても、あまり気持ちのいいものではない。ましてや海の近くに居る人たちにとっては、気が気ではないであろう。

朝から津波警報のニュースで持ちきりだ。お昼頃、テレビをつけると各テレビ局で予定を変更して津波警報の報道をしている。

画面を見ると大きな字で「津波にげて!」と呼びかけている。そして各沿岸への津波到達時刻と津波の高さを刻々と報じている。

お昼の段階で、各地の津波の高さは30cm~50cmくらいだった。それでも危険なことには変わらない。沿岸部に居る人は取るものも取り合えず、沿岸から離れてできるだけ高いところに避難してくださいとしきりに呼びかけていた。東日本大震災の悪夢を繰り返したくないからである。

ある民放のニュース番組を見ていたら、アナウンサーが、津波の専門家とおぼしき学者と電話をつないでいた。

「ただいま、海岸にクジラが打ち上げられているという情報がありました」というニュースを繰り返し報じた後、アナウンサーが電話の向こうの専門家に質問した。

「先生、津波でクジラが海岸に打ち上げられることはあるのでしょうか?」

「そりゃあ、津波というのは海面が移動するものですからね。クジラが打ち上げられることもありますよ。珍しいことじゃありません」

と専門家が話した直後、アナウンサーが、

「あ、ただいま情報が入りまして、クジラが打ち上げられたのは津波とは関係ないとのことです」

と訂正をした。

スタジオが相当混乱していることを意味するのだろうが、そんなことを差し引いても、専門家との電話はなんとなくちぐはぐなように思えた。

それを決定的にしたのはそのあとのやりとりである。

「先生は今回の津波をどのようにご覧になっていますか」

「心配することはないです」

えっ?と、一瞬スタジオが凍りついたように思えた。

「でも、海底の地形によっては津波の高さが高くなる可能性もあるのではないでしょうか?」

早く逃げてくださいとさっきからさんざん呼びかけているアナウンサーは、専門家の回答にとまどっている様子が声のトーンからうかがえた。

「たしかに海底の地形によっては高さが左右されますね。しかし地震はカムチャッカ半島で起こっていて、それによる津波であることを考えると、あまり海底の地形の影響を考える必要はないので、心配ないです」(聞き流していたので、発言が不正確かもしれないことをご了承下さい)

その後もその専門家は「心配ないです」を繰り返した。

アナウンサーは、

「それでも海岸から離れて高いところに避難する必要がありますよね」

「まあそうですね」

「○○先生、ありがとうございました」

と、電話を切った。

アナウンサー、というか、放送局の立場としては、一刻も早く避難してくださいと呼びかけているので、専門家にはそれを後押ししてもらうためのコメントを期待したはずである。しかしその専門家は、マイペースな人なのか、「心配ないです」と、話の腰を折るようなコメントをしたのである。アナウンサーは最後になんとか誘導して、「早く避難する必要がある」というコメントに着地させたが、ベテランのアナウンサーをもってしても、動揺している雰囲気が伝わる会話だった。

ここからは僕の仮説。

「心配ない」というその専門家の認識が甘い可能性ももちろんある。

一方で、いろいろな事象を分析して、今回の津波は大騒ぎするほどではない、心配ないと結論付けた可能性もある。つまり学問的にみて「心配ない」という結論に帰着した可能性もある。

しかし学問的にみて「心配ない」と結論を出したとしても、それで安全が確認されるわけではない。学問は所詮人間の思考にすぎず、えてして自然災害は、人知を越える被害をもたらすからである。自然災害は人間の都合など考えないのだ。ここ30年ほどの自然災害で、我々は学んだはずである。

学問とは無力なものだ。なぜならそれは人間の思考以上のことを想定できないから。僕は最近そんな考えに取り憑かれている。そんな限界を認めつつ、やり続けなければならないのが、学者の業(ごう)ではないかと思い始めている。

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コメント

 実際の放送を見ていないので何とも言えませんが、東日本大震災経験地域民には「とりあえず逃げる。何ともなかったらそれはそれでよかったじゃん」的な考えが根付いちゃっているんで、その専門家の発言には違和感しかないですけども・・・。
 人知を超えるとはまた違うかもしれませんが、今回の騒動により、高台に逃げれば津波からは助かるかもしれないけれど、暑さで命が危険になるという問題が浮き彫りになったのは大きな経験かと思います。
 私の街は田園部を走る有料道路の盛土が東日本大震災の津波の最終防衛ラインの役割を果たしたため、有料道路に上るための階段が何か所か整備されたのですが、当然に屋根や備蓄品があるわけでもなく。宅地を作れない沿岸部にも避難の丘が作られましたがただの高台ですし。
 しかし屋根を作るとヘリでの捜索や救助の妨げになるという問題もあり、中々難しい問題です。
 長文失礼しました。

投稿: 江戸川 | 2025年7月31日 (木) 21時02分

江戸川君ありがとう。
たしかにこのたびの津波による避難は、酷暑とそれによる熱中症という想定外の事態も生み出しましたね。現場では一筋縄ではいかない事態が各地で起こっていたと思います。それはひとくくりに単純化できるものではありませんね。人知を越える自然災害が起こるたびに、その経験を次に生かしていくことが、人間が災害に向き合うための知恵なのだろうと思います。

投稿: onigawaragonzou | 2025年8月 1日 (金) 06時33分

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