人事の人見·その2
もうとっくに終わってしまったドラマだが、以前にフジテレビ系のドラマ『人事の人見』についてこのブログに書いた。僕にはただただ不愉快な内容に思えた。なぜなのだろうと、ずっと考えてきて、ようやくその理由がわかった気がした。
まず、『人事の人見』がどのような内容のドラマだったかというのを、Wikipediaから引用する。
「文房具メーカー「日の出鉛筆」は、体育会系で営業部などという現場の声が最優先という、古い体質が残る会社だった。そんな日の出鉛筆の人事部に、ある日海外企業から超エリートが入ってくるという噂が。
期待をする人事部一同だったが、入ってきたのは人見廉という、噂とは全く違うおバカでピュアな男だった。会社勤めをしたことのない人見が、持ち前の性格で様々な会社の問題を解決する痛快オフィスエンターテイメント」
この人見廉という「おバカでピュアな男」「会社勤めをしたことのない人間」が、「様々な会社の問題を解決する」という。実際にドラマを見ても、そのようなストーリーになっている。
僕が引っかかっていた点は、まさにこの点だった。まったく会社勤めの経験のない人間が、思いつきだけで会社の問題を解決できるのだろうか?まったく経験や蓄積のない人間が、戦力になりうるのか?
もちろんこれはファンタジーでありエンターテインメントだからそんなに目くじらを立てることはないという反論が来るのは当然かもしれない。
僕が問題にしているのは、何の経験も蓄積もなく、勢いだけで会社を改革できる人間にカタルシスを感じている、ドラマの制作陣と視聴者がいるという事実である。
このドラマのクール中は、参議院選挙の期間中と重なっていた。今回の選挙の最大の特徴は、多党化が進み、新興政党が勢力を伸ばしてきたことにある。具体的に言おう。参政党とか日本保守党とか、新党みらいとかである。
これらは街頭演説やSNSなどを通じて勢力を伸ばしていったが、はっきり言って政治のド素人集団であり、街頭演説の様子をSNSなどで見ると、聞くに耐えないような政策を訴えている。
しかも「既成政党の古い考え方」を打破して、新しい(と思われる)政策や極端な改革案(らしきもの)を述べて、一部の人の熱狂的支持を得たりしている。その結果、参政党は躍進して議席を大幅に伸ばした。候補者のほとんどが政治の素人で構成されている集団にもかかわらず、である。
「何にも知らない素人だったら、古い因習にとらわれている既成政党の政治を改革して、政治がよくなるんじゃね?」というのは、会社勤めの経験がなく、おバカでピュアなキャラクターの人見廉が、会社の古い体制を改革してくれることにカタルシスを感じることと、同じメンタリティなのではないだろうか。
しかし現実の社会では、そんなことがうまくいくはずはない。なぜなら、それは幻想にすぎないから。人見廉が会社の仕組みをまったく勉強する気がなかったように、ド素人の政治集団が本気で政治について勉強することはないであろう。それで成功するのは、ドラマの中だけである。
その幻想に安易に寄りかかってしまう有権者を育ててしまったのは、既成政党か新興政党かにかかわらず、政治家の責任である。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- ウディ・アレンの映画(2025.10.20)
- 演出家はなぜリメイクを作ろうとするのか(2025.10.17)
- 仕事の極意(2025.10.12)
- 傾聴の極意(2025.10.09)
- 人事の人見·その2(2025.08.04)


コメント