救急車の思い出·後編
(承前)
Bさんが寝ている和室に行くと、Bさんが息苦しそうに呼吸をして、大汗をかいて布団に入っている。これはたしかに尋常ではない。学生たちが「様子がおかしい」と僕の部屋に駆け込んできたことは、決して大げさなことではない。
「あのぅ……」
Aさんが口を開いた。
「ひょっとして、私の霊感がうつったんじゃないでしょうか?」
霊感がうつる?霊感って、伝染するものなのか???
とにかくBさんをこのまま放っておくわけにはいけない。この時間だと病院はどこも閉まっているし、これで何か不測の事態が起こったら僕の責任だ。
僕は救急車を呼ぶことにした。
実習中に救急車を呼ぶなんて、前代未聞のことである。しかしBさんに何かあっちゃいけない。
救急車が来た。僕は救急車に同乗した。ほかに、Bさんと親しいCさんも同乗したと記憶する。
「とりあえず一晩入院しましょう」
救急車で運ばれた病院の先生が言った。「ついては入院の承諾書に署名してください」
ふつうなら家族が署名するところだが、代理で僕が署名するしかなかった。
「あのぅ……」
Bさんが息も絶え絶えに口を開いた。
「この私の携帯電話の一番上の電話番号にかけて、事情を説明していただけないでしょうか」
「誰?ご家族?」
と聞いたら、Bさんは言いにくそうに、
「彼氏です」
と言った。
おいおい、家族に連絡する前に彼氏に連絡するのか?
僕がかけるとややこしくなるため、同行したCさんに電話をお願いした。
僕は、その彼氏はBさんをそうとう束縛するタイプなのだろうと推測した。だから家族を差し置いて、いの一番に彼氏に電話したのだ。
その晩は旅館に戻り、翌朝、再びCさんと病院に向かった。Bさんはすっかり回復していて、安堵した。退院の手続きをとり、ほかの学生たちと合流した。やれやれ、一件落着である。
僕はその翌月の9月に職場を移ったから、それ以来、AさんにもBさんにもCさんにも会っていない。
でも今ならはっきりと言える。
あれは霊感なんかじゃなかった。熱中症だったのだ、と。
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コメント
救急車。乗って初めて分かること。
同乗:めちゃめちゃ揺れるけど患者大丈夫?
搬送:呼んでごめんなさい。急いでくれてるのは分かるけど身体バウンドして痛い。
投稿: 江戸川 | 2025年9月15日 (月) 17時27分
江戸川君その通りです。救急車ってなんであんなに揺れるんでしょうね。美専車みたいな仕様にすればいいのに。僕が運ばれたときには未舗装の山道を走ったりしたのでなおさら揺れました。
投稿: onigawaragonzou | 2025年9月16日 (火) 21時41分
119番消防です。火事ですか、救急ですか、美専車ですか?
パパが国宝の仏像をノドに詰まらせてしまって。
わかりました。美専車を出す住所を教えて下さい。
がたがた市まっくろ川1-1の鬼瓦です。
(「展覧会の絵」のメロディーの救急指令音)
もう、美専車を出しています。引き続きお聞きします。
仏像の名称、制作年代、値段はどのくらいですか?
仏像の破損状況はどうですか?
仏像を救出する際に、飲み込んだ方のノドを切開してもよいですか?
それはできない?
それでは美専車は出せません。救急車を出すには、傷病者の救命処置を実施する前に仏像の損害賠償契約が必要になりますので、まず保険会社で手続きをお願いします。
投稿: 🐢🚑 | 2025年9月19日 (金) 17時26分