私はお茶が飲みたい
10月10日(金)
各階には「食堂」というスペースがあり、「自立」できない患者(介助が必要な患者)は、自分の病室ではなく、その食堂で毎食の食事をとることになっている。食事の時間以外にも食堂で時間を過ごす患者も多い。食堂にはいろいろな種類のお茶や水が飲み放題の「給茶機」があり、紙コップを所定の位置に置けば容易にお茶や水を飲むことができる。
僕もしばしばお茶やお水を飲むためにその給茶機を利用しているのだが、そこでこんな光景に出くわした。
食堂で過ごしていた、一人の高齢のおばあさんが、突然立ち上がって、給茶機のほうの歩いて行こうとした。給茶機のある場所は、目と鼻の先である。
すると、病院のスタッフが慌ててそのおばあさんのところに駆け寄った。
「どうしたの?」患者は、立ち上がることすら許されていない。
「…お茶が飲みたい」おばあさんはお茶を飲み干してしまい、お茶をもう1杯ほしくなったらしい。
「テーブルの上を見てごらん、紙コップに入ったお水ならあるわよ」
「これは私のじゃない」
「何言ってるの?このお水は私が○○さんのためにもってきた水よ。これを飲めばいいでしょ?」
「でもお茶が飲みたい…」
「もうすぐお昼ご飯が来るからね。座って待っていてちょうだい」
お昼ご飯の時間まではまだ30分近くある。
病院のスタッフは再三にわたって「座って待っていなさい」「我慢しなさい」とたしなめるが、おばあさんは納得しない。
かくして、何度か押し問答が続いた。
僕は、イヤなものを見てしまったなあという思いにとらわれた。
すぐそこにある給茶機でお茶を入れればそれで解決するではないか。本人が難しければ、病院スタッフが代わりにお茶を入れてあげておばあさんのところに持っていけばすむ話である。時間にして20秒もかからない。
しかし病院スタッフは頑なにお茶を飲ませようとはしない。自分が持ってきてやった水を飲めという。
ここではお茶も自由に飲ませてくれないのか、と絶望的になった。
「お茶くらい飲ませてあげなさいよ」とよっぽど声をかけようと思ったが、そうすると、今度は病院スタッフのイライラが僕のほうに向かい、最悪の場合、僕が攻撃されて罰を与えられることになりかねないので、何も言わずに食堂を出た。
最終的に、おばあさんがお茶のおかわりができたのかどうかわからない。たぶん病院のスタッフと患者の力関係から考えて、できなかっただろう。
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