小さな魔法
企画だおれの企画「贈り物のエピソード」。予想通りこぶぎさんのほかに誰もお寄せいただかなかったので、企画の終了宣言をしようかと思っていた矢先、ついにお一人からエピソードをいただくことができました!ご本人に連絡を取り、このブログへの掲載を許可いただきましたので、以下に掲載させていただきます。
だまらーネーム「わさびな」さんです。
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小さな劇場に立つ人に、終演後にお会いして、小さなお菓子を手渡すことがある。
旅先で見つけた地方の銘菓や、コンビニで買って美味しかった個包装のお菓子を、「おすそわけ」と言って持っていく。
一つか二つをラッピング用の紙袋に入れて準備するのだが、手渡す前にいったん一つずつ取り出して、お菓子の説明をして聞かせるのが常だ。
その人はとても偏食だから、私はいつも自分が先に食べてみることにしている。
「そんなに甘くないですよ。」「熱海の『こっこ』によく似てますよ。」と、味や食感を伝える私の話を聞きながら、包みの裏を一生懸命に見ているその人に、「大丈夫そうですか?」と尋ねる。
すると少しだけ目線を上げて、「だいじょうぶだと思います。」とその人は答える。
それが、お決まりのやり取りだ。
ある時、コンビニでクリームソーダ味のミルキーを見つけた。クリームソーダはその人の好物だ。
買って食べてみたが、味もとても良かった。
これはおすそわけしたいと思ったが、ミルキーは紙で包んであるだけだから、いつものように小さな贈り物としてパッケージすると、ちょっと警戒されてしまうかもしれない。
そこで、お会いした時に、目の前で封を開けてみせた。
「これ本当にクリームソーダの味がするんです。おひとつどうぞ。」と、口の空いた袋を差し出した。
その人は、「へぇ」と言いながら、指で一粒摘み出した。
すぐに紙包みをほどいて、口の中に放り込んでくれた。
思いもよらない反応に、胸の奥で何かが大きく動いた。
その人は少し微笑んで「これは、よくできてる」とボソッと呟いた。
うれしいよりも、まず安心が胸の奥に落ちた。
「十粒以上入ってますけど、どうされますか?」
私は、努めて事務的に伝えた。
その人は、「じゃ、もう一粒だけ。せっかくだから。」と言って、袋からもう一粒摘んでパーカーのポケットに入れた。
言葉にすると重くなりすぎる気持ちを、形あるものに変えて、相手に手渡す。
その瞬間だけ、あちら側の世界と私を厳しく隔てる薄いベールがふわりと揺れて、相手に触れないまま触れさせてくれる。贈り物は小さな魔法だ。
その人はいつも「ありがとうございました」と頭を下げてから、振り向きもせずに去っていく。
その背中を見送って、私はゆっくりと反対の方向へ歩き始める。
肩を並べて歩くわけにはいかない。
だから、少し遠回りをしながら、同じ駅へ向かう。
本当に「ありがとう」と思っているのかなんて分からない。
それでも、小さな魔法の灯りに照らされて一瞬だけ浮かび上がったあの景色は、私の胸の中だけで、今も静かに光っている。
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企画はもう少し続けます。


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