夏休みの読書
毎年この時期になると気になるのは、「夏休みに首相はどんな本を読むのか」である。
ここ最近の首相は、夏休み前になると都内の大型書店にくり出し、夏休みに読む本を何冊か購入する、というパフォーマンスを見せるのだが、あれはどんな意図を狙っているのだろうかと、いつも訝しく思う。
今年の夏休み前は都内の大型書店で10冊の本を購入した、とニュースにあったが、その10冊のうち、何冊かは書名が公開されている。ある記事によると、
「『世界資源エネルギー入門』(平田竹男・著)、『地図でスッと頭に入る世界の資源と争奪戦』(村山秀太郎・監修)、『まるわかりChatGPT&生成AI』(野村総合研究所・編)、『アマテラスの暗号』(伊勢谷武・著)、さらに、村上春樹の長編小説『街とその不確かな壁』など」
と5冊の書名が公開されている。
ほかにもいろいろな記事を見てみたが、これ以上の情報は得られなかった。ある大新聞社の記事には、
「首相周辺によると、村上春樹さんの新作長編小説「街とその不確かな壁」や、世界の資源エネルギーに関する解説書、生成AI(人工知能)の入門書などを買ったという」
とあり、村上春樹の新作の書名のほかは、なぜか書名がぼかしてある。
「入門」とか、「スッと頭に入る」とか、「まるわかり」とかいったフレーズが入ったタイトルの本を、書店に行ってこれ見よがしに購入する一国の首相の心理というのは、どういうものなのだろう。というか、首相がいまさら入門を読むのかよ!と心許なくていけない。
せっかくパフォーマンスとして購入する本なのだから、もう少し購入する本の内容とか書名を吟味する必要があったのではないだろうか、と思ったのだが、少し調べてみると、首相は今年の正月休みにも、本を15冊ほど購入していたらしい。
そのなかに『カラマーゾフの兄弟』全5巻があったそうなのだが、ある記事によると、首相は1巻で投げ出し、長男に『読んで内容を教えてくれ』と託した、とあった。
その反省があってなのか、今夏は自分が読めそうな本を選んだ、ということなのだろうか。よくわからない。
休暇前に首相が書店に行って本を購入する、というパフォーマンスが、いつ頃から始まったのか、よくわからない。僕の記憶では、前の前の首相がそんなパフォーマンスをやり、SNSで誇らしげに購入した本を公開していたと記憶する。そのとき僕はそれを見て、明らかに特定の支持者へのアピールだな、と感じたものである。
いまや政治家は知性や教養を誇るという時代ではなくなったということだろうか。幕末の倒幕派を気取る党名を持つ公党のマスコットキャラクターが、当時佐幕派を象徴していた組織の「だんだら羽織」を着ているというデザインなのは、もはや「何でもあり」の世界である。
1993年からその翌年まで首相を務めた細川護熙氏が、首相を務めた時期に書いていたという『内訟録』という日記が出版されていて、この本がめちゃくちゃ面白いのだが、そこには、イヤミなくらいに、惜しみなく自らの知識や教養を端々に披露している。そもそも、文体が文語体なのだ。
首相たるもの、これくらいの教養は身につけておかないといけないという見本のような日記だったのだが、あれから30年たったこの国は、それでも「進歩した」「発展した」と言えるのだろうか。
最近のコメント