育児

申し訳ないんだけど…

1月16日(日)

土日になると、身体がシャットダウンして、何もやる気が起きなくなる。

ところで、3歳9か月の娘の最近の口癖は、「申し訳ないんだけど…」である。

もっぱら、

「申し訳ないんだけど…、オシッコしたくなっちゃった」

というふうな使い方をする。

べつに教えたわけではないのだが、「申し訳ないんだけど…」という言葉を使うようになったのはなぜだろう?

…と思って記憶をたどって、思い出した!

昨年末に放送された「そろそろにちようチャップリン 「ASH&D」特集」というお笑い番組で放送された、阿佐ヶ谷姉妹のコントの一節である。「ASH&D」というのは、シティボーイズが立ち上げ、いまは阿佐ヶ谷姉妹も所属する芸能事務所のことである。

そのときにやっていたコントは、「温泉にやってきたおばさんふたりが、ゾンビになる」というネタなのだが、そのコントの中で、阿佐ヶ谷姉妹のミホさんが、

「渡辺さん、楽しい旅行中に申し訳ないんだけど、私、ゾンビになったみたい」

という台詞がある。コント中に、「楽しい旅行中に申し訳ないんだけど」というセリフが2回登場するのだが、娘はどうやらその台詞がいたく気に入って、「申し訳ないんだけど」という言葉を覚えたらしい。しかもその言い方が、コントの中でのミホさんの言い方にそっくりなのだ。

どうやら娘は、ミホさんのセリフがひどくお気に入りのようだ。

試しに、録画してあるそのコントをもう一度見せたところ、「楽しい旅行中に申し訳ないんだけど、私、ゾンビになったみたい」というセリフを、画面の中のミホさんよりも娘のほうが1拍早く発していた。つまり、ここでこのセリフを言う、ということを覚えているわけである。

次に、

「iPadで阿佐ヶ谷姉妹がみた~い」

というので、YouTubeで「阿佐ヶ谷姉妹」と検索し、サムネイルを見せたところ、

「これがいい」

と言って、NHKラジオの東京03の番組で、ゲストの阿佐ヶ谷姉妹が東京03とコントを共演する回を指さした。以前にも一度聴かせたことのあるものだ。

「これでいいの?だってこれ、阿佐ヶ谷姉妹の顔は出ないよ。声しか出ないよ」

「これでいい。これが聴きたいの」

と言って、iPadの動かない画面を前に、娘はじーっとそのコントを聴いていたのだった。

ラジオコントをじーっと聴く3歳児、恐るべしである。

そうかと思うと、夜になると突然、娘が言い出した。

「あの…大泉さんがみた~い」

「大泉さん?」

ここ最近、娘は昨年の大晦日の紅白歌合戦の録画をくり返し観ているらしく、それでついに大泉さんを認識したらしい

「大泉さんが出ている、お歌のテビル(テレビ)を観たいの?それとも、ちょんまげのテビルを観たいの?」

「…ちょんまげ」

「大泉さんが出ているちょんまげのテビル」、というのは、いま放送中の大河ドラマのことである。ドラマの中で大泉さんは、源頼朝を演じているのだ。

今日はその第2回だったので、娘と観ることにしたのだが、北条政子役の小池栄子が出てくると、

「あ、マツコさんだ!」

と画面に向かって指をさした。

「マツコさんじゃないよ。まさこさん」

「あ、まさこさんね」

なぜか、大泉さんの他に小池栄子さんを認識しているというのは、紅白歌合戦の審査員で出演していたことを記憶していたからだろうか。

しかし不思議なのは、源頼朝役の大泉さんは「大泉さん」と本名で呼んでいるのに、北条政子役の小池栄子さんは「まさこさん」と役名で呼んでいることだ。なぜなのかは、わからない。

大河ドラマは、さすがに3歳の娘にはむずかしい内容だったと思うのだが、大泉さんと小池栄子さんが出ている場面になると、画面に釘付けになっていた。

いずれにしても、これで大泉さんを認識することができたので、「水曜どうでしょう」を見せる日も近い。

 

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交渉術

1月9日(日)

3歳9か月の娘は、基本、ディズニーアニメ映画が好きである。

昨年末、サンタさんからのプレゼントが、ディズニー映画「モアナと伝説の海」のDVDだったこともあり、いまはこの映画をくり返し観ている。

今日も娘はこのDVDを手にとった。

「ねえねえパパ。これが観た~い」

「何度も観すぎだよ。どうしようかなあ」

と、見せることを渋っていると、娘はおもむろに一人芝居をはじめた。

「チリリリーン、ちょっとお父さん、テレビ低くして!…はい、もしもし木村です。はい、はい、はい、はいはいはい、はいはいはいはい、ガチャ!ごうか~く!」

以前にもやった、阿佐ヶ谷姉妹のM-1グランプリ準々決勝のときの「おばさん検定」という漫才のネタの一場面である。なぜか娘は、このミホさんのセリフのみ、くり返しまねをしているのだ。ただし、以前よりもかなり手を抜いており、クオリティーはかなり下がっている。

なぜおもむろにこのネタをやり始めたのか?

これをやると、パパの機嫌がよくなると思ったのだろう。パパの機嫌がよくなれば、DVDを見せてもらえると思い、このネタをやったと思われる。まったく、恐るべし、3歳児の交渉術である。

最近は、阿佐ヶ谷姉妹から派生して、「孤独のグルメ」を観るようになったが、6時間くらい見続けていたら、松重豊さん演じる井之頭五郎がどのタイミングで決め台詞を言うかがわかったらしく、

「腹が…、減った…。よし、店を探そう」

という台詞を、井之頭さんよりも数秒早いタイミングで言っている。もうすっかり松重豊さんは「井之頭さん」なのだ。

今のところ、娘が名前と顔を一致させた「テレビに出ている大人」は、思いつくだけでも、「町山さん」(町山智浩)、「コアラさん」(名探偵ポアロ)、阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんとミホさん、「井之頭さん」(松重豊)、である。

そして今日、大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」を観ていると、源頼朝役の大泉洋さんが出てくるなり、

「この人、見たことある!」

と叫んだ。紅白歌合戦の司会をしていたことを覚えていたのだろう。

「この人、大泉さん、って言うんだよ。覚えられる?」

というと、

「…むずかしい」

と言ったので、今後の当面の課題は、「大泉さん」を認識させることである。それができれば、「水曜どうでしょう」を見せる日も遠くない。

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超ウルトライントロドン

1月6日(木)

午後から大雪の予報だったが、午前中に職場でどうしても外せない用務があるので、朝6時過ぎに家を出て、車で2時間かけて出勤する。2時前に仕事が終わった時には、すでに外は大雪だった。急いで車で職場を出る。今日の夕方は保育園にいる娘の迎えに行き、夕食を作って食べさせなければいけないのだ。案の定、大雪のため高速道路は大渋滞し、3時間以上かかって帰宅し、なんとか保育園の迎えに間に合った。

夕食を作っている間、娘の注意をテレビに向けさせる必要がある。録画しているリストのうち、「何が見たい?」と聞いたところ、

「うんとねぇ、あのねぇ‥違う人が歌っているのが見たい」

という。

はて、「違う人が歌っている」番組とは何だろう?

ピンときた!昨年末に放送した「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」のドラマのことだ!ドラマの中では、本物の阿佐ヶ谷姉妹ではなく、本物とは「違う人」が劇中で歌を歌っている。そのことを言ってるのではないか?たしか最終回の最後の場面は、阿佐ヶ谷の住人がみんなで「トルコ行進曲」を歌って終わる。「違う人が歌ってる」というのは、具体的にはその場面のことではないだろうか?

僕は早速テレビ画面に録画リストを表示し、ドラマ「のほほんふたり暮らし」の最終回のところに、カーソルを合わせた。そうすると、右下に小さく、その録画した映像がサムネイルのように映し出される仕組みになっている。

娘はそれを見るなり、「怖いからやだ」と叫んだ。

「どうして?」

「だって、夢に怖い人たちが出てくるから」

言われてみればそうだ。ドラマの最終回では、ゾンビになった阿佐ヶ谷の住人たちが阿佐ヶ谷姉妹を襲う、という悪夢のシーンがあるのだ。娘はそのゾンビが怖くてたまらないのである。

それにしても、画面右下に小さく映し出される最終回の冒頭部分の映像を見ただけで、「ゾンビが登場する回だ!」とわかってしまう娘は、あたかも「超ウルトライントロクイズ」に答えられるような才能を持っている。

「これじゃない!カミコウセン」

「カミコウセン」というのは、我が家における「おかあさんといっしょ」の呼び名である。

そこでまたピンときた!昨年の大晦日に放送された「おかあさんといっしょ 冬のリクエストスペシャル」のことだ!この番組では、歴代のうたのおにいさん、うたのおねえさんが歌っていた時の映像が映し出されていた。「違う人が歌ってる」というのは、現役のうたのおにいさん、うたのおねえさんではない人が歌ってるという意味なのではないか?

そこでこの番組を見せると、

「これこれ!」

とビンゴだった。

‥と、毎回こんな感じで「超ウルトライントロドン!」的なコミュニケーションを娘と取っているのだ。

おかげで娘がこの番組に釘づけの間、夕食を作ることができた。

夕食後は聴きたいラジオがあった。NHK第一放送の「東京03の好きにさせるかッ!」である。今夜のゲストコント師は、シティボーイズの斉木しげるさんなのだ。

再び娘の注意をテレビに向けなければならない。こんどは、最近娘がハマっているディズニー映画の「モアナと伝説の海」を見せることにした。

こちらのラジオも始まった。東京03のトークが始まると、その声を聞いた娘が僕のところにやってきた。

「阿佐ヶ谷姉妹の声も出るの?」

僕はビックリした。実は以前に、阿佐ヶ谷姉妹がゲストの回の音源を娘に一度だけ聴かせたことがあったのだが、娘はパブロフの犬が如く、東京03の声をほんの少し聞いただけで、阿佐ヶ谷姉妹がゲストに来た時のことを瞬時に思い出し、今回も阿佐ヶ谷姉妹が出演すると思い込んだのである。

これもまた立派な「超ウルトライントロドン!」の世界ではないか!

おそるべし、3歳児である。

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落ち着きのない人

3歳9ヵ月の娘を観察していると、飽きない。

「お笑い」の腕を、どんどん上げているような気がするのだ。

家族で食卓を囲んでいると、

「○○ちゃんはマルね、ママもマルね、パパは…バツね」

とよく言われる。なんだかよくわからないが、娘とママは「合格(マル)」で、パパは「不合格(バツ)」だというのだ。

で、最近は、

「○○ちゃんはマルね、ママもマルね」

ここまでは、それぞれを指さしながらニコニコして言うのだが、その後、急に表情が暗くなり、声のトーンを下げて、こちらを指さして、

「…パパはバツね…」

と、非常に「残念そうな顔」をして言うのである。その表情が可笑しくてたまらない。「3人目はオチ」というお笑いの鉄則を、知らず知らずのうちに修得しているのだ。

うんちがしたくなると、

「うんち!うんち!」

と親を呼びつけ、トイレに連れて行かせるのだが、

「うんちっち~♪うんちっち~♪」

という自作の歌を歌いながらトイレに向かう。すると、ふと我に返り、

「『うんちっち』って、何?」

と言う。

「知らんがな!おまえが歌ったんやないか!」

と、思わず僕が(なぜか関西弁で)ツッコミを入れてしまう。さんざん「うんちっち~♪」と歌った後の「うんちっちって何?」というボケは、計算なのか?天然なのか?

昨日は、お風呂に入るときに、娘がこんなことを言い始めた。

「チリリーン チリリーン

ちょっと、テレビ低くして!

はいもしもしキムラです。はい、はい、はい、はいはいはいはい、けっこうです、チン」

何を言い出したのかと思ったら、阿佐ヶ谷姉妹のM-1グランプリ準々決勝のときの「おばさん検定」という漫才のネタである。

しかも、電話がかかってきたという想定で妹のミホさんが電話を取って応対する、という漫才の一場面を再現したのである。これにも爆笑した。

「もう一度やって!」

と言うと、恥ずかしがっているのか、もったいつけているのか、やろうとしなかった。

しかし謎である。娘はなぜ、阿佐ヶ谷姉妹のわかりやすい歌とかではなく、このわかりにくい場面をマネしようと思ったのか?

そもそも、「チリリーン」という音が電話の呼び鈴であること自体、娘は知らないはずである。わが家には固定電話がないから、なおさらイメージしにくい。それに、うちはキムラでもない。電話で話している場面だということをわかっていてマネをしているのだろうか?すべてが謎である。

今朝、娘は起き抜けに阿佐ヶ谷姉妹の動画を見たいと言い出した。

「何が見たいの?」

「『落ち着きのない人』が見たい!」

「落ち着きのない人?」

はて、そんなネタはあっただろうか??

「細かすぎて伝わらないモノマネ」シリーズにそんなのがあったかな?と思って探してみるが、見つからない。とりあえず、サムネイルを見せながら、

「これ?」

と片っ端から聞いていくのだが、「ちが~う」と答えるばかり。思い通りの動画が見られないことにだんだんイライラがつのり、いまにも泣きそうである。

こうなったらこっちも当てずっぽうで、2020年に「オンラインやついフェス」として公開された「東京リモートコントメン」の動画を見せることにした。阿佐ヶ谷姉妹のほかに、ASH&Dコーポレーション所属の芸人「ザ・ギース」と「ラブレターズ」も、リモートコントを演じている。当然、娘もつい最近観たことのある動画だ。

すると娘は「これこれ」と言いだした。

はて、「落ち着きのない人」なんて、出てきたかな?

最初に阿佐ヶ谷姉妹のネタ、次にラブレターズのネタ、最後は、ザ・ギースのネタである。

最後のザ・ギースのネタをみていた娘は、

「落ち着きのない人!」

と言い出した。

賃貸物件を希望する客(高佐)が、オンラインで不動産屋(尾関)に問い合わせをするのだが、不動産屋のエキセントリックな言動に客が翻弄される、という内容のコントである。

娘は、不動産屋役をしているザ・ギースの尾関さんの画面を指さして、

「これこれ!落ち着きのない人」

と言ったのである。たしかに、画面の尾関さんを見ると、落ち着きのない様子をしている。

「わかるか!そんなもん!」

と思わずツッコミを入れた。阿佐ヶ谷姉妹が大好きな娘に「落ち着きのない人」って言われたら、誰だって阿佐ヶ谷姉妹のネタだと思うだろう!

ことほどさように、3歳の子どもは、謎に満ちている。

そういえば、Facebookのニュースフィードを漫然と眺めていたら、僕と同じ3歳の娘を持つお父さんの投稿があって、

「上野駅にペンギンのイラストがあって、かわいいなあと思うのですが、3歳の娘には不評でした」

というものがあった。

するとコメント欄に、

「何故不評だったのですか?私はかわいいと思いますけど」

と、その父親を詰問する感じのコメントが何件か来ていた。

父親は、困った様子で理由を想像して回答をしていたが、途中、「父親に詰問してもねえ、わざわざ理由なんて聞きます?幼い娘に」と援護射撃をした人がいて、それに対して「理由くらい、パパだもん、聞いているでしょ?」という反論のコメントが寄せられ、プチ炎上していた。

理由を聞いてもわからないことは多い。僕はその父親に、ちょっと同情した。

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阿佐ヶ谷漂流記〜珍道中珍道中〜

12月27日(月)

3歳9ヵ月になる娘は、昨日から3日連続の予定で短期集中のプール講習である。今日はその2日目。

午前中、1時間半ばかり講習を受けるのだが、今日はそのほかに、午後にもう一つ、大事な予定があった。それは、阿佐ヶ谷に行く!という計画である。

すでに何度も書いているように、娘はいま、阿佐ヶ谷姉妹に夢中なのだ!NHKのドラマ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」が終盤にせまった頃から、阿佐ヶ谷に行きたい、と何度も言っていたので、年末に連れて行く約束をしたのである。

問題はその日程である。日曜日に行くと混むだろうし、あまり年末に近づきすぎても混むだろう、ということで、昨日ではなく、今日と相成ったのである。

プール講習会場の最寄りの駅から、阿佐ヶ谷までは、電車でわずか数駅である。

そういえば、娘が電車に乗るというのも、じつに久しぶりではないだろうか。前回乗ったのはコロナ禍の前で、しかもベビーカーに乗って乗車したと記憶している。いまはもうベビーカーは不要である。

娘は電車のアナウンスを注意深く聞いた。

「次は~、○○、○○」

と流れてくる音声に対して、

「阿佐ヶ谷じゃな~い」

と残念がる。やがて、

「次は~、阿佐ヶ谷~、阿佐ヶ谷~」

という車内アナウンスが聞こえて、

「やったあ~!阿佐ヶ谷だ~」

と娘は小躍りした。

駅を降りて、最初に向かったのが、「gion」という喫茶店である。

プール講習を終えてお腹がペコペコの娘に、阿佐ヶ谷で何を食べさせようか?最初は、阿佐ヶ谷姉妹ファンの間で最も重要な聖地となっている中華料理屋の「朝陽」にしようかと考えたのだが、朝陽はわずかばかりのカウンター席しかなく、3歳の娘をカウンター席に座らせて、ニラ玉定食を食べさせるというのは、かなり難易度が高い。そこで考えたのが、「gion」だったのである。

阿佐ヶ谷姉妹の姉のエリコさんが「人生最高レストラン」という番組の中で、

「gionのナポリタンが美味しくて、エッセイが書けないときにこの店のナポリタンを食べて勢いづけようとしたが、それでも書けなくて失意のうちにアパートに帰ると、ミホさんが私好みの甘いカレーを作ってくれていて、その何気ない気遣いに涙が止まらなかった」

というエピソード披露していた。その意味でここも聖地の一つである。

「gion」に入ると、そこはちょっとこじゃれた、インスタ映えするようなお店だった。

窓際のテーブル席が空いていたので、そこに座ったのだが、当然のことながら、3歳の子どもに合わせた作りにはなっていないこともあり、娘はどうも、座り心地があまりよくないようである。

さっそくナポリタンを注文すると、

「できあがるまで20分程度かかりますが、それでもよろしいでしょうか」

「はぁ、大丈夫です」

ここまで来たのだから、もう引き返すわけにはいかない。

「お待ちの間、ドリンクでもいかがですか?」

「そうですか、じゃあ、バナナジュースをください」

なんとか娘を飽きさせないようにと、バナナジュースで気を紛らわせることにした。

しかし、午前中のプール講習の疲れか、娘の機嫌はだんだん悪くなる。

僕たちの席の両隣には、それぞれふたりの若い女性が、向かい合って座っていて、いろいろと話しながら食事をしている。それぞれ20代くらいだろうか。

僕が気になったのは、僕から向かって左側の席に座っていたふたりの女性。娘から見たら向かって右側の席に座っている女性である。

なにやら、2人のうちの1人が、知ったかぶりの芸術談義をもう1人にしている。もう1人に対して、

「○○の絵についてはどう思うの?」「○○って画家、知ってる?」「○○って映画、見た?」

という「上からの質問」を投げかけまくっていて、もう1人がちょっと困惑しながらもなんとか話を合わせている、という地獄のような光景が広がっている。

「ふだん絵を見る時に、どういうことを感じながら見てる?」

「どういうこと…、うーん…」

困った質問を投げかけられて、もう一人は、

(どう答えたら正解なんだろう?)

と、答えを必死で探り探りした挙げ句、

「やっぱり、きれいだなぁとか、色彩がいいなぁとか、そういうことですかね」

と恐る恐る答えた。

「私なんかの場合はぁ~、ゴッホとかゴーギャンとかが、このキャンバスの目の前に立っていたんだな、とか、画家の死後に画家の家族がこの絵に直接触れたんだな、とか、そういう、描かれた絵の背景を想像しながら見るんですよねぇ」

(知らねぇよ!)

と心の中でツッコんだ。こんな地獄絵図が延々と続くのだ。

2人はどういう関係なのだろう?2人とも年齢はほぼ同じように思えるのだが、お互いちょっと敬語気味で話している。さほど親しいようにも思われないのだが、どういういきさつで、2人でこの店に入って食事をすることになったのだろう?というかこの「マウントをとろうとする側の人」が、どうにもいけ好かないのだ。

阿佐ヶ谷姉妹の「のほほん」な関係とは対照的に、じつに緊張感のある関係である。阿佐ヶ谷で「のほほん」な体験を期待していた僕は、いきなり出鼻をくじかれた。

…と、ナポリタンが来るのを待つ間、そんなことを考えていたら、娘が、その知ったかぶりの芸術談義をしている女性のほうを指さして、

「この人、ずっと喋ってる!どうしてずっと喋ってるの?」

と言うではないか!まるでまわりの大人の本音を「王様は裸だ!」というひと言で明るみに出すような行動である。

「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!しーっ!」

と慌てて娘の口を人差し指で押さえた。

それにしても不思議である。僕たちの両隣には、同じような女性2人組が座っていて、同じように喋っていたのである。娘はよりによって、僕がいけ好かねえと感じていた人を指さして、「この人、いつまで喋ってんの?」と口に出したのだ。子どもの観察眼を侮ってはいけない。

それはともかく。

娘はさすがにナポリタンを完食することはできず、ちょっと不機嫌なまま、お店を出ることになった。

さてそこから今度は、阿佐ヶ谷駅北口アーケード商店街を通り、聖地が並ぶ松山通り商店街を歩く。途中、阿佐ヶ谷姉妹とゆかりのある八幡煎餅でおせんべいを買いながら、めざすゴールは中華料理屋の「朝陽」である。

しかし娘の機嫌はなおらない。おそらくお昼ごはんを食べて眠くなってきたのだろう。それに加えて、おそらく自分が抱いていた阿佐ヶ谷のイメージとは、異なっていたからかもしれない。そりゃそうだ、だって、NHKドラマは名古屋放送局が制作だから、ロケ地の多くは阿佐ヶ谷ではなく、名古屋だったのだ。ドラマで見た「ハイム安澤」も、喫茶店の「いとし」も、中華料理屋の「朝来」も、現実の阿佐ヶ谷には存在しないのだ。しかしそんな説明が、3歳の娘に通じるはずもない。

途中からしきりに、

「ねえねえ、エリコさんとミホさんはどこ?エリコさんとミホさんに会いたい」

と言いだした。

「あのねえ、エリコさんとミホさんは、いま浜松町というところで、ラジオの生放送のお仕事をしているんだよ」

と説き伏せるのだが、あまり納得しない。

なんとかゴールの「朝陽」に到着して、そこからまた松山通り商店街を引き返す。その間、娘はずっとグズっている。

阿佐ヶ谷駅北口アーケード商店街まで戻ったところで、娘のグズりはピークに達した。

「エリコさんとミホさんに会いた~い!うえぇぇぇぇ~ん!」

ついに立ち止まって、顔面が崩れるほど泣き出してしまった。その泣き声は、アーケード商店街中に響き渡った。

おいおい、この商店街の人たちは、いわば阿佐ヶ谷姉妹の関係者なんだぞ!「エリコさんとミホさん」という名前を出したら、「はは~ン、この親子は、阿佐ヶ谷姉妹を目当てに阿佐ヶ谷をさまよい歩いているな」ということが、すぐにバレるじゃないか!!

結局、そのあとに訪れる予定だった、阿佐ヶ谷駅南口のパール商店街にたどり着くことはできず、そのまま阿佐ヶ谷駅から電車に乗って家に戻ったのであった。

娘は、阿佐ヶ谷を気に入ってもらえなかったのだろうか?

家に帰った娘は、録画してあるNHKのドラマを見て、今日の復習をしていた。

おそるおそる「また阿佐ヶ谷行きたい?」

と聞いたら、

「また阿佐ヶ谷に行きた~い」

と答えていたので、こんど阿佐ヶ谷に訪れるときは、プール講習みたいな疲れのたまる予定を事前に入れずに、万全の体調でのぞむことにしよう。

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ピアノ教室体験入学

12月4日(土)

12月第1週の週末恒例の、「業界人祭り」は、昨年は完全オンライン開催だったが、今年はハイブリッド形式で行うという。当然僕は、オンライン参加を申し込んだ。

初日であるこの日は、疲れていたこともあり、休むつもりでいたのだが、休むことにしたもう一つの理由は、午後にピアノ教室の体験入学があったからである。と言っても、僕ではなく、3歳8か月になる娘の、である。

ピアノ教室は、自宅からちょっと離れた、この界隈で随一の繁華街にある。バスで行くこともできるのだが、1時間に1本なので、自転車で行くことにした。娘は妻の自転車の後ろに乗り、僕は、この町に引っ越してから1度も乗っていない、もう1台の自転車に乗った。

僕は実に久しぶりに自転車、いわゆる「ママチャリ」に乗ったのだが、久しぶりに乗る自転車は錆だらけで、タイヤの空気もすっかり抜けている。

まずはタイヤの空気を入れなければならない。

自宅から一番近い自転車屋さんに行く。むかしからある小さな自転車屋さんである。

店先にある空気入れをお借りして、タイヤに空気を入れたのだが、空気を入れ終わった後も、「シー」という、空気が漏れているような音がしている。

(ひょっとしたらパンクかな?)

と思い、お店の扉を開けて、

「すみませ~ん」

と声をかけたのだが、お店には誰もいないようである。

(不在なのかな?ま、いいか)

と思って、立ち去ろうとしたところ、

「どうしました?」

と、お店の主人が中から出てきた。この道50年、といった感じの白髪のおじいさんである。

「あのう、いま店先の空気入れをお借りしてタイヤに空気を入れたんですけれど、『シー』という音がして、空気が漏れているんじゃないかと思うんです」

「どれどれ、拝見」

店の主人はタイヤから出る「シー」という音を聞くと、

「パンクじゃないね。バルブから漏れてるんだよ」

と言った。

「ここ数年、夏が暑かったでしょう」

「夏が暑いことが関係あるんですか?」

店の主人は、タイヤのバルブをはずして、僕に見せた。

「ほら、この部分。黒いゴムの部分が溶けているでしょう?」

「そうですね」

「夏の暑さでこのゴムが溶けちゃうでしょう。そうするとそこから空気が漏れちゃうんだ」

「なるほど」

「交換しましょう」

そういうと、店先にあるレターケースのようなところから、ゴムを取り出し、バルブに装着した。

「これで大丈夫。最近は夏が暑いから、2年に1回くらいは交換しないとね」

「そうなんですか。ありがとうございます」

僕は400円を払って、ふたたびピアノ教室へ向かって出発した。

久しぶりに自転車のペダルをこぐと、思いのほか足が疲れる。以前だったら何でもない距離なのだが、いまは、途中で引き返そうかと思うくらい、心が折れそうになる。娘を乗せた妻の自転車との距離が、どんどん離れていく。脚力というか、体力が相当に落ちていることを実感した。

やっとの思いでピアノ教室に着いた。

娘は、自宅ではわがままし放題で、大声で歌を歌うくせに、初対面の人の前に出ると、借りてきた猫のようにおとなしくなる。ま、僕も子どもの頃からそうだったのだが。

だが、次第に娘も心を開いていく。ピアノの先生には、娘の好きな歌をあらかじめ知らせていたので、先生はディズニー映画の「アナと雪の女王」の「Let It Go(ありのままで)」の楽譜を準備していた。先生が伴奏を演奏すると、娘はそれに合わせてフル尺で歌いきった。

30分のレッスンだったが、ピアノの先生の教え方がとても上手で、娘も楽しげにピアノに触っていた。はじまって30分で、「ドレミ」の3つの音階を弾けるようになったのは、飲み込みが早いんじゃないだろうか。僕らは即座に入会を決めたのだった。

自宅までの帰り道もまた自転車である。いよいよ体力がきつい。娘のピアノレッスンよりも、僕の自転車リハビリのほうが深刻である。

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親子漫才

11月28日(日)

今日もまた、午後に4時間ぶっ通しのオンライン会合。すっかり疲労してしまった。

オンライン会合が終わって、3歳8ヵ月になる娘のもとに行くと、ちょっと難しめの迷路の本を持ち出してきた。最近、娘は迷路に凝っているのだ。

「迷路やる」

「迷路やるの?」

「うん」

そういうと、小さな人差し指で、「スタート」からゴールめがけて道をなぞっていく。

「わかんな~い」

そりゃそうだ。3歳にしては難しいんだもの。

そのうちに、その本の後ろの方に「解答」がついていることを発見した。「解答」には、その迷路を抜ける正しいルートが、赤い線で書かれている。

娘はその赤い線を指で追いながら、「スタート」から「ゴール」を目指した。

「ダメダメ、答えを見ながらやったらダメだよ!」

と僕がたしなめると、娘はどうしたと思う?

娘はその解答のページを開いたまま、本から目をそらして、ページの上を適当に指でなぞる仕草をしたのだ。

「ちがうちがう、そうじゃなくて!」

「え?」

「答えを見ながらやったらダメっていうのは、そういうことじゃないの!」

「どういうこと?」

「答えから目をそらすってことじゃなくて、答えを見ないで迷路をやるってこと!」

すると娘は再び、解答のページを開いたまま、本から目をそらして,ページの上を適当に指でなぞる仕草をする。

「だから、そうじゃないってば!」

…という一連のやりとりをして気づいた。これって、コントとか漫才として十分に成立してるんじゃなかろうか?

いよいよ娘のお笑いのステージが、もう一段階アップしたのだ!

M-1に出られるんじゃね?「阿佐ヶ谷姉妹」に対抗して、「何とか親子」とか。その「何とか」が思いつかないが。

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「のほほんふたり暮らし」は、哲学だ!

NHKのドラマ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』を欠かさず見ている。姉のエリコさんを演じる木村多江さんの憑依型演技と、妹のミホさんを演じる安藤玉恵さんのデフォルメ型演技が、いい感じにバランスがとれていて、「虚実皮膜」感を醸し出している。

3歳8ヵ月になる娘も、熱心に観ている。いつの間にか、「ミホさん」と「おねえさん」の区別がつくようになった。「エリコさん」のことを「おねえさん」というのは、ドラマの中で、「ミホさん」がそう呼んでいるからである。

いつの間にか娘の中では、木村多江さんと安藤玉恵さんのコンビが、本物の阿佐ヶ谷姉妹になってしまったようである。TBSテレビの「人生最高レストラン」でゲスト出演していた「本物の」阿佐ヶ谷姉妹を観た娘は、

「ちが~う」

と言っていた。

しかし不思議なもので、だんだんと認識していくものらしい。動画サイトで「本物の」阿佐ヶ谷姉妹の漫才ネタを見せると、端末の画面に向かって、「ミホさ~ん、おねえさ~ん」と呼びかけていた。名前を呼ぶ順番が「ミホさん」の方が先なのは、ドラマの中で、エリコさんが最初に「ミホさん」と呼び、それに対してミホさんが「おねえさん」と呼びかけるケースが多く、たぶんそれを聞き慣れていたからであろう。

しかも、ドラマの中のエリコさんも、「本物の」エリコさんも、よく泣くのだが、娘の中で「おねえさん」は、「よく泣く人」と認識するようになった。「この人(エリコさん)は、よく泣く人」「この人(ミホさん)は、泣かない人」と。

さらにすごいと思ったのは、エリコさんの涙が、決まって「うれし涙」であることに、娘が気づいたことである。

「おねえさんの涙は、うれし涙。だから、泣いてもいいんだよ」

娘の言葉には、ほんとうに悲しいときは泣かないんだよ、という深い意味が込められているようで、哲学的である。

第1話の再放送を一緒に観ていたときなどは、

「ミホさんは、ひとりっ子は楽だと言ってたけど、ひとりっ子は楽じゃないよね。パパもママも、楽じゃないでしょ?」

という「ひとりっ子」の娘の言葉に、思わず爆笑してしまった。

「そうだね。楽じゃないよね」

この洞察力を、大切にしたい。

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アニメキッズ=ウルトラファイト

11月19日(金)

先週1週間(日~金)は、妻が出張で不在のため、娘の世話に奮闘したのだが、今週も、昨日の木曜の午後から日曜日まで妻が出張なので、ふたたび奮闘の数日である。今日などは、朝8時に娘を保育園に送り、その後、車で1時間半ほどかかる病院まで書類を取りに行き、さらにその足で職場に出勤し、滞在時間3時間ほどでとって返し、午後6時の保育園のお迎えにギリギリ間に合った。娘を寝かしつけた後、TBSラジオ「アシタノカレッジ金曜日」を聴き、今週も無事に過ごせた(ほんとうは無事じゃないけど)、という感慨に浸った。

もうすぐ3歳8か月になる娘が、アンパンマンが好きだということは、以前にも書いたことがある。

というか、小さい子どもは、みんなアンパンマンが好きである。

しかし、わが家では、アンパンマンのアニメを娘に見せていない。

わが家では、BS朝日で放送中の「町山智浩のアメリカの今を知るテレビ」(通称「あめしる」)をわざわざ録画して観たり、先日までNHK-BSPで放送していた「名探偵ポアロ」も録画して欠かさず観ていたので、娘にとっては、「まちやまさん」「ポアロさん」が、有名人なのである。

もっとも、「ポアロさん」の方は、「ポアロ」とは言えず、「コアラさん」と言っている。しかし本人は、「コアラ」ではなく「ポアロ」だというのは、自覚しているのである。

先日、娘が僕に聞いてきた。

「あのー、おひげ生やして、帽子かぶって、杖をついている人…。コアラさん?」

「コアラさんじゃなくて、ポアロさん」と僕が言うと、ニコリと笑い、舌打ちのような仕草で口を開き、両手の人差し指を出して、こちらに向かって指さすようなポーズをとった。

「そうそう、ポアロさん!君、やるねぇ」

というアメリカンなリアクションである。いったいどこでそんな仕草を覚えたんだ?

しかも、最初にわざと「コアラ」とボケて見せて、僕に「ポアロ」と直させて、そのリアクションをとったのだから、計算された「ボケ」なのである。

…この話、うまく伝わっているかなあ。

リアクション、ということで言えば、娘が何か勘違いをしたりしたときに、右手でおでこをピシャリと叩いて、

「まいったまいった」「してやられた」「これまた失敬!」

といったリアクションをとるのである。これって、昭和のリアクションじゃないのか???いったいどこでマスターしたんだろう?

まあそんなこんなで、最近はすでに「ミニコント」の域に入りつつある。

先日も、保育士さんに、

「○○ちゃん、ほんと、おしゃべりが面白いですよねぇ」

と言われたので、

「ええ、飽きません」

と答えた。親の僕から見ても、「喋り」や間のとりかたが絶妙なのである。やはり、末(すえ)はいとうあさこのような自虐を笑い飛ばすお笑い芸人か、あるいは阿佐ヶ谷姉妹のミホさんのような、マイペースで世界を俯瞰で見ることのできるお笑い芸人になれるのではないだろうか。そういえば、娘のほっぺたは阿佐ヶ谷姉妹のミホさんのそれに似ている。

…いや、今回はそういうことを書きたいのではない。アンパンマンの話である。

いま娘がハマっているのは、YouTubeの「アニメキッズ」という番組である。なんだかよくわからないのだが、アンパンマンの出演陣のお人形を使って、一人の女性が、いわばお人形遊びをしているという映像を、延々と映しているのだが、娘はこれに夢中なのである。

いわゆる「お人形遊び」なので、作り手が勝手に物語を作るわけである。そこには、アニメの本編におけるそれぞれのキャラクターの関係性、といったものは、あまり考慮されていない。つまりスピンオフもスピンオフ。本編のアニメとはまったく異なる世界観がそこにあるのだ。

不思議でならないのは、娘はアンパンマンの本編のアニメにはさほど関心がなく、むしろまったく異なる世界観の「お人形遊び」の動画に惹かれているということだ。

これをたとえていえばですよ。「ウルトラセブン」の本編のドラマではなく、「ウルトラファイト」のほうに夢中になる、ということなんですよ!

「ウルトラファイト」に出てくるウルトラセブンと怪獣との関係性は、「ウルトラセブン」の本編における関係性を、まったく無視している。いわばこれも「お人形遊び」なのだ。TBSアナウンサーの山田二郎の、プロレス実況を思わせるナレーションがさらにその要素を強くしている。

実は告白すると、僕が子どもの頃、「ウルトラファイト」という番組に夢中になっていた。場合によっては、本編の「ウルトラセブン」よりも好きだったかもしれない。

そうか、娘にしてみたら、「アンパンマン」の本編ではなく、「アニメキッズ」という動画に夢中になるのは、「ウルトラセブン」の本編ではなく、「ウルトラファイト」に夢中になるような感覚なんだろうな。親子というのは、実に好みが似るものである。

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モストマスキュラー

11月9日(火)

妻が出張して3日目。

妻が出張で1週間不在の時は、娘になるべく「ママ」のことを思い出させないことを心がけなければいけない。なぜなら「ママ」のことが急に恋しくなって泣いてしまうからだ。だからこちらが不用意に「ママ」とかいった言葉を発してはいけないのである。

それは、実家から応援に来てくれている僕の母(つまり娘からすると「ばあば」)も心得ている。

「いいかい、ママを思い出させるような言葉を口にしちゃいけないよ」

「わかってるよ」とばあば。

保育園から帰ってきたあと、ばあばと3人で夕食。食べながら、ばあばが言った。

「これ、まあまあ美味くできたね」

すると突然娘が、

「ママ、まだ帰ってこないの?ママに会いたい」

と泣きそうな表情をした。

僕はばあばに小声でたしなめた。

「なんてこと言うんだよ!」

「なにがよ」

「ほら、泣きそうになってるだろ!」

「何も言ってないわよ」

「まあまあ美味しいって、言ったろ?」

「だって美味しいんだもん」

「そうじゃなくって、『まあまあ』という言葉がいけないんだよ!」

「あ、そうか…」

まるで寅さんの映画に出てくるワンシーンのようである。

記憶をたよりに書くが、離婚したばかりの女性が「とらや」に訪ねてくる。もちろん、寅さんの意中の「マドンナ」である。

寅さんは、とらやのみんなに、

「いいかい、離婚したばかりの人なんだから、別れたとか、離れたとか、切れたとか、そういう言葉は絶対に使うんじゃないぞ」

と、とらやの家族に釘を刺す。もちろんこれは、「絶対に押すなよ」的なフリである。

やがてその「マドンナ」がとらやにやってきて、最初はあたりさわりのない会話をしているのだが、おばちゃんあたりが、

「晴れたねえ」

と言い、

「ほんと、いい天気になったねえ」

と寅さんが返すと、

「雲が切れたんだね」

と言う。そこで寅さんが、「切れたなんて言葉を使うんじゃないよ」と、おばちゃんを小声でたしなめる。その後、たがが外れたように、さらに「禁句」のオンパレードとなり、とらやは大混乱になる。

そんなシーンが、「男はつらいよ」のシリーズで定番になっていたが、それを思い出したのである。

まあそれでも、娘は娘で、なるべくママのことを口に出さないと心がけているようだ。

ものまね、すかし、スラップスティックなど、一通りの笑いのパターンをつかんだようである。

「マカロニサラダばかりを食べないで、お肉を食べなさい」

というと、お肉を指さして「これはサラダ」、サラダを指さして「これはお肉」と言ったりする。「屁理屈の笑い」とでも言おうか。

ここ数日、ボディビルダーの「モストマスキュラー」のポーズをして見せていて、爆笑した。

こっちが爆笑すると、自分が面白いことをやっているんだと感じるのか、自分の立場が悪くなったりすると、モストマスキュラーのポーズをしてごまかしたりする。

「どこで覚えたの?」

と聞くと、

「テビル(テレビ)で見た」

と言うのだが、見せた記憶がなく、何かの番組でほんの一瞬見た場面を覚えていて、それが面白いと思い、まねをしたのだろう。恐るべき観察眼である。

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