10月12日(土)
この3連休は3連勤なのだが、最初の2日はうちの職場がホストになる会合が行われる。
朝、比較的早く家を出たのだが、3連休の初日ということもあり、高速道路は大渋滞。11時のイベントに間に合わないかもと焦ったが、ギリギリ間に合った。
1日目は話を聞いているだけでよかったのだが、午前も午後も力のこもったトークが続き、いまの自分にやれと言われてもとてもできないと思い、そろそろ引退を考えた。
1日目の用務が終わり、18時からは会合チームによる懇親会である。会場はいつものお店だと聞いたので、これもいつもの通り、車でお店の近くのコインパーキングに停めて合流するつもりだった。
職場を出て、いつも利用しているコインパーキングに車を停めようとすると、大きく「満」の文字が見える。
しまった!今日はこの町の秋祭りの最中だった!
この町の秋祭りはこの地域で一二を争うお祭りのようで、当然ながら秋祭りを楽しむために周辺各地からたくさんの人が集まってくる。そういう人たちが、コインパーキングを利用しているのだ。
しばらく待ってみたが、埒があかないので、スマホで「この近くの駐車場」と検索し、片っ端からコインパーキングをあたってみたが、どこのコインパーキングも「満」の字である。僕は絶望した。
いよいよ諦めて、職場に車で戻り、職場の駐車スペースに停めて歩いて会場に向かうことにした。最初からそうすればよかった。
職場の駐車場に車を停めて、車を出て歩き始めると、警備員さんが追いかけてきた。
「僕です。鬼瓦です」
「鬼瓦さんですか。てっきり不審者かと思いました」
真っ暗なのでそう思われるのも仕方がない。
「ちょっとお店の近くのコインパーキングがどこも満車だったので、ここに車を置かせてもらおうと…」
「そういうことですか。秋祭りですからね。気をつけて行ってらっしゃい」
僕は懇親会会場に向けて歩き出し、開始時間より30分遅れて到着した。そして懇親会はちょうど9時に終わった。
僕はそこから2時間かけて家に帰り、高速道路の渋滞を勘案して翌朝早くに家を出て職場に出勤するつもりだったが、冷静に考えて、それは無茶な移動だということに昨日ようやく気づき、昨日、慌てて隣の市のホテルを予約した。ほんとうなら市内のホテルに泊まりたかったのだが、どこも満室だったのだ。
予約したホテルは、チェックインが午後10時まで、とあった。最近は深夜12時くらいまでにチェックインできるホテルが多いと思うのだが、このホテルはかたくなに「午後10時まで」と主張している。予約サイトの写真を見ると、やや古いホテルのようだったが、Wi-Fiも使用可能と書いてあるし、駅からも近いし、「風呂、トイレ付き」とわざわざ書いているので、値段の相対的な安さに負けて、予約してしまったのである。
カーナビの通りに車を運転すると、たしかに駅前の大通りのところは通るのだが、そこからちょっと道を曲がったら途端に道が細くなり、どんどん坂道を上がって行くではないか!さっきの繁華街は嘘のように、まわりは何もない道に出てしまった。
そこから右にぐーんと曲がると、坂道の勾配はさらにキツくなっていく。およそこんなところにホテルなんかあるはずがないぞ、と誰しも思うような細い道が続いている。
カーナビは、たしかにこのあたりだと教えてくれているのだが、ホテルらしき建物が見あたらない。
僕は急勾配の坂道に車を停車して、ホテルに電話をかけた。
すると、電話に出たのはおじいちゃんだった。しかも耳の遠いおじいちゃん。
僕は自分の場所を説明しようとするが、初めての場所なのでどう説明していいかわからない。
「自分はどこにいるのでしょう?」
「月はどっちに出ている」
というセリフでおなじみの、タクシードライバーを描いた映画『月はどっちに出ている』を思い出した。
とりあえず耳の遠いおじいさんとの会話をくり返すうちに、もう少し坂道を登ったところにあるようだということがわかった。
坂道を上り続けるが、それらしいホテルが見あたらない。ついに丘の頂上まで行くと、広い駐車場があった。
ここじゃないか?だって予約サイトには「駐車場30台」と書いてあったぞ。しかしホテルらしき建物は見あたらない。
僕は耳の遠いおじいさんに再び電話をかけた。
「広い駐車場のところに来ました。このあたりですか?」
「それは行き過ぎだよ。いま来た道を戻りなさい。気づかなかったのか?」
「ええ」
「じゃあホテルの玄関を出て誘導するから」
僕はいま登った坂道を下った。
するとほどなくしておじいさんの姿が見えた。
「ここでしたか」
「なんで気がつかなかったんだ」
なんで気づかなかったんだといわれても、真っ暗な道なので気づかないのは当然である。
「車はここに停めなさい」
と指定された場所が、ホテルの前に3台ほどある駐車スペースだった。
30台じゃなかったのかよ!
しかし3台の駐車スペースはガラ空きで、余裕で駐車できた。
ようやくチェックインをしたが、カウンターには耳の遠いおじいさん一人しかいなかった。一人で切り盛りしているのだろうか?
鍵を受けとったが、むかしながらの開け方をする鍵だった。当然、オートロックではない。
なにより不思議なのは、このホテルに人気(ひとけ)を感じないことである。このホテル予約難の時代に、ひょっとしたら泊まっているのは俺だけか?と考えたら、ちょっと身震いした。
急勾配の坂道の途中にあるホテル。ホテル名はその立地にふさわしい名前であったことに、後で気づいた。ふつう、そのホテル名だったら、オシャレなホテルを想像するだろ!
当然、周囲にコンビニなどあるはずもなく、明日は朝早くチェックアウトして、職場の近くのコンビニで朝食を調達をするしかないな。
朝起きたらホテルなんかなくて、身ぐるみはがされて葉っぱ一枚で坂道に寝そべっていたらどうしよう。
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